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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

寄生虫あれこれ(1)

公益財団法人目黒寄生虫館

寄生虫は美しいか

 山口左仲(さちゅう)は1930年代以降に活躍した寄生虫学者で、主に魚や野生動物の蠕虫(ぜんちゅう)類(吸虫、条虫、線虫などの大型寄生虫の総称)の分類を手掛け、1,400種にのぼる新種を報告しました。論文に使われた寄生虫の原図が残っていて、左仲の死後、東京都目黒区にある目黒寄生虫館に寄贈されました。
 原図は細密画を見るようです。たとえばある種の吸虫の子宮には1,000個に及ぶ卵が詰まっていて、1つひとつがきちんと同じ大きさ、同じ太さで整然と描かれています。驚くべきことに、図に修正の跡はひとつも見当たりません。実は、図はすべて左仲が雇った画工に描かせたものです。穂先の毛を数本だけ残した筆を使ったといわれています。左仲の指示を忠実に表現できる極めて優秀な画工だったことがわかります。
 寄生虫館では昨年4月から『孤高の寄生虫学者 山口左仲』という常設展示を始め、原図の一部を公開しています。展示では、微細な筆使いを実感できるように、原図そのものに加えて、原図の写真をタッチパネルで自由に拡大して鑑賞できるようにしました。「寄生虫標本は気持ちが悪かった」という来館者の感想を聞くことがありますが、そういう方々も今回の展示をご覧になれば、寄生虫は美しい生き物だと感じることができるはずです。
(2017年1月号掲載)

一番大きな寄生虫は?

 目黒寄生虫館を見学する子どもたちからは、よく「世界で一番大きな寄生虫は?」と質問されます。回虫やダニなどを思い浮かべ、寄生虫は宿主より小さいものと考えがちですが、そうとも限りません。
 目黒寄生虫館では、人体から排出された8.8mの日本海裂頭条虫(生体時には10mを超えていた)の標本を展示しています。この条虫(サナダムシの仲間)は小腸に寄生しますが、人間の小腸(約5~7m)よりも長く、日本人男性の平均身長の5倍以上です。ちなみに、この標本の隣に同じ長さの紐があり、その長さを体感できます。さらに同じ条虫類では、体の大きなクジラ類に寄生する複殖門条虫の1種で、20mを超えるものが知られています。
 クジラ類には、線虫類(回虫や蟯虫(ぎょうちゅう)などの仲間)の中でも長い種類が寄生します。腎臓に寄生するクラシカウダは長さ数mにもなり、腎臓の中で細長い体をコイル状に巻いて寄生しています。これに近縁な線虫で、マッコウクジラの胎盤に寄生するプラセントネーマは長さ8.4mにもなります。
 これらの寄生虫も、生まれた時には0.1mmにも満たない小さな卵にしか過ぎません。いろいろな苦難を経て、こんなにも大きくなる寄生虫を、ただ嫌がるだけではなく、注目してあげてもよいのではないでしょうか。
(2017年3月号掲載)

真田紐から「さなだむし」

 人間に寄生する無鉤条虫(むこうじょうちゅう)や日本海裂頭(にほんかいれっとう)条虫など、条虫類を「さなだむし」と呼びますが、昔からこの名前だった訳ではありません。中国の医学書『諸病源侯論(しょびょうげんこうろん)』(610年)や、これを基にした日本最古の医学書『医心方(いしんぼう)』(982年)にある「白虫」が、今の条虫類といわれています。さらに、この虫が千切れて便に排泄されたものを「寸白虫(すばくむし)」、または「寸白」と呼びました。
 その後、この言葉は寄生虫だけでなく、妖怪や疫病神などとしても使われるようになりました。たとえば、『今昔物語』(平安時代末期)の「寸白、信濃守に任じて解け失せし語」には、人間の役人に化けた寸白が登場します。そのほかには「長虫(ながむし)」という、見たままの名前もありました。
 ところで「さなだむし」という名前ですが、「真田紐(さなだひも)(絛紐(さなだひも))」という、機(はた)で織った平らな織物の紐が由来です。真田紐は横方向に畝(うね)があり、さらに中央に筋が入るデザインが多く、裂頭条虫類の見た目に似ていることから、条虫類を「さなだむし」と呼ぶようになったようです。真田紐はチベットやネパールが起源と考えられ、日本で広まったのは戦国時代なので、「さなだむし」が人々に使われるようになったのは、主に江戸時代以降といえるでしょう。
(2017年11月号掲載)

もし、寄生虫がいなくなったら?

 一般に、「寄生虫」は悪いイメージをもたれています。人間やペット、家畜などに悪影響を与える場合が多いためでしょう。しかし、すべての寄生虫がいなくなればよいというわけではありません。
 たとえば、カマキリやカマドウマなどに寄生するハリガネムシという寄生虫がいます。寄生されたカマキリは川に飛び込みやすくなることが知られていますが、それが魚類の重要な餌となっています。もしカマキリがまったく川に飛び込まなければ、魚は水棲昆虫などを大量に捕食し、数を激減させてしまいます。水棲昆虫は藻類を食べるので、いなくなってしまうと、今度は川底が藻で覆われてしまいます。ハリガネムシは、河川の状態を保つのに貢献しているのです。
 そのほか、磯に棲む1センチほどの巻貝の体内に寄生する吸虫で、宿主の摂餌量を大幅に減少させるものが知られています。宿主の貝は、岩の表面に生える特定の海藻を餌とします。もしこの寄生虫がいなければ、この海藻はどんどん食べられてしまい、代わりにほかの藻類や動物が岩に張り付くため、その場でみられる生物が大きく異なると考えられています。私たちは、周囲の生態系からさまざまな恩恵を受けて生活しています。寄生虫だからといってやみくもに排除すると、バランスが崩れ、環境が大きく変わってしまうかもしれないのです。
(2020年6月号掲載)

人類に役立つ線虫の仲間「シー・エレガンス」

 線虫は体表がクチクラという丈夫な膜で覆われ、体幅は狭く、体長は1mm以下から数mまでさまざまです。土壌の中で生活するもの、ほかの動物や植物に寄生するものなど、多様な環境でみられます。大半の種は私たちの普段の生活では馴染みがありませんが、中には人類に役立っている種もいます。その代表が、シー・エレガンス(Caenorhabditis elegans)です。
 シー・エレガンスは世界に広く分布しており、体長は1mmほどです。飼育が容易で分子生物学的研究に広く活用され、特に、アルツハイマー病やパーキンソン病、統合失調症の研究に多大な貢献をしてきました。最近では、少量の尿から癌の”におい“を検知できることが判明し、これを利用した癌検査法も開発されました。
 野生のシー・エレガンスは、どのような生活をしているのでしょうか。これまでは、土壌中に生息していると考えられていました。しかし、最近の研究で、腐敗した植物の茎や果実に生息していること、生息地間をダンゴムシ類やカタツムリ類などに乗って移動していることが判明しました。さらに、ほかの小さな動物や菌類の餌資源になるなど、生態系で重要な役割を果たしていると考えられています。シー・エレガンスの自然界での機能について、今後の研究が期待されています。
(2021年11月号掲載)

ウミガメに寄生するアニサキスの仲間

 アニサキスという寄生虫をご存知の方は多いのではないでしょうか。線虫の仲間で、サバなどの魚介類に寄生した幼虫が食中毒の原因になることで有名です。成虫はクジラ類に寄生します。実は、このアニサキスにはたくさんの仲間がいます。ここでは、変わったアニサキスの仲間について紹介したいと思います。
 サルカスカリス(Sulcascaris)はアニサキスの仲間のひとつで、成虫はウミガメの消化管に寄生します。太平洋と大西洋の両方に広く分布し、日本にも記録があります。幼虫は、貝の仲間に寄生します。貝の体内である程度成長し、ウミガメに食べられるとその体内で成虫になるのです。サルカスカリスの幼虫は、ホタテ貝類やムール貝類といった食用貝にも寄生しますが、これまでのところサルカスカリスによる人への健康被害は報告されていません。しかし、貝の可食部の見た目が悪くなって商品価値が下がることから、水産業界では問題になることがあります。
 一方、サルカスカリスの成虫は、ウミガメに潰瘍性消化器炎を起こすことが報告されています。これは、アニサキスの成虫が、宿主のクジラ類に健康被害をほとんど与えないこととは対照的です。現在、食品衛生やウミガメ保全の観点から、サルカスカリスについての研究が盛んに行われています。
(2022年8月号掲載)

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