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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

子どもの健康

博慈会記念総合病院 副院長 小児科医 田島剛

乳児にハチミツを食べさせてはいけない?

 子どもに関わるすべての人々の常識ですが、あいまいな記憶ではいけません。1987年に厚生省保健医療局感染症対策室長から各都道府県の衛生部あてに、「1歳未満の乳児に蜂蜜を与えないように指導すること」※1 という通知が発出されています。
 これは、乳児ボツリヌス症の予防のためです。ボツリヌス菌が原因の感染症には「飯寿司(いずし)」※2 や「辛子蓮根」で話題になった食餌中の毒素による食中毒と、細菌が乳児の腸管で増えて毒素を産生し、発症する乳児ボツリヌス症があります(どちらも保健所に届けなければいけません)。このうち、乳児ボツリヌス症は腸管の常在細菌叢(そう)が成熟する前に、ボツリヌス菌を摂取したときに起こる病気です。初乳の影響なのか、生後2週未満の発症は少ないとされています。
 乳児ボツリヌス症の症状は、便秘から始まり、徐々に筋力の低下(表情が乏しい、泣き声が弱い、哺乳力が低下、眼瞼下垂など)が進行し、最終的には呼吸筋も麻痺して亡くなることがあります。ボツリヌス毒素は自然界に存在する毒の中で最強といわれています。普通に土壌にいる細菌なので、どのような食材に付着していても不思議はありません。ただし、ハチミツは野菜のように洗ってきれいにすることができないために、乳児にハチミツを与えてはいけません。
(2017年1月号掲載)

※1 1歳を過ぎると子どもの腸内細菌叢が出来上がり、ボツリヌス菌が腸内で増殖できなくなるため、制限がなくなる
※2 乳酸菌を発酵させて作る「なれずし」の一種

子どもの発熱(1)その原因

 子どもの発熱の原因は、ウイルス感染症が圧倒的に多くなります。臓器別に見ると、ウイルス性の上気道(じょうきどう)感染症、いわゆる風邪と気管支炎が最も多く、次いで消化器感染症(急性胃腸炎)の頻度が高くなっています。重要なことは、感染症には感染部位があり、それに伴った症状が発現することです。
 気道感染症では咳や鼻水などが主な症状で、急性胃腸炎では嘔吐や下痢が主症状です。ところが、乳幼児の尿路感染症では、発熱以外に症状がまったくない場合が多く、尿検査を行わないと診断がつきません。中耳炎も鼓膜を観察しないと診断できない場合があります。中耳炎ならば耳の痛みがつきものだと思われがちですが、中耳腔(ちゅうじくう)に浸出液が貯留して鼓膜に圧がかかるようにならなければ、耳痛は出現しません。
 症状と診察所見から発熱の原因を探しだすのは、小児科医の腕の見せ所です。その後に病原体を推定し、それぞれに適切な治療法を選択します。ウイルス感染症に抗菌薬は効果がありませんから、発熱している子どもすべてに抗菌薬を投与する必要はありません。ウイルス感染症では、症状に合わせた対症療法が主な治療になります。
 次回からは、(2)解熱・鎮痛薬について、(3)注意が必要な発熱についてご紹介します。
(2017年4月号掲載)

子どもの発熱(2)解熱剤は必要?

 今回は、子どもが発熱したときに解熱剤を使ったほうがよいのか、使わないほうがよいのかについてお話しします。私は、「子どもの発熱に解熱剤を使う必要はなく、使わないほうがよい」と考えています。高熱を下げないと、脳に障がいが起こるのではないかと思っておられる方がまだたくさんいらっしゃいますが、医学的根拠はありません。とても珍しい病気では熱を下げる必要がありますが、これは本当にまれな病気です。
 前回もお話ししたように、子どもの発熱の原因はウイルス感染症が圧倒的に多いのです。人に感染するウイルスは人の平熱で増える性質を持っていますから、体温が高くなるとウイルスは増殖しにくくなります。体温を高くして自分の身体を守っているのです。ウイルスの増え方が皆さんでも目に見える病気があります。水ぼうそう[水痘(すいとう)]です。水ぼうそうの子どもに解熱剤を使用すると、発疹が非常に多くなり重症になることがわかっています。このため、水ぼうそうの子どもに解熱剤を使ってはいけないという決まりになっています。
 ほかのウイルス感染症でも、同じことが起こっています。熱が下がれば一時的に子どもが楽になったように見えますが、実は病気を重くしているのです。解熱剤は、体調の悪い大人がそれでも頑張って仕事をするために使う薬だと思っていただければよいでしょう。
(2017年6月号掲載)

子どもの発熱(3)注意が必要な発熱

 今回は、特別に気をつけなければならない子どもの発熱についてお話しします。
 6か月以下、特に3か月未満の乳児の発熱には要注意です。一見、元気そうに見えても、急激に状態が悪化する場合があるからです。敗血症(はいけつしょう)、髄膜炎(ずいまくえん)、尿路(にょうろ)感染症などの重症細菌感染症が、それ以上の年齢と比較して高率に検出されます。100人の発熱乳児のうち、7人に重症感染症がいると報告されています。このような乳児は外来で治療することはなく基本は入院して、いかなる重症感染症があっても手遅れにならないように治療を開始するというのが先進国のスタンスです。ですから乳児の発熱では、必ず病院に行くと覚えておいてください。
 ただし最近のワクチン接種事情の変化から、少しだけ対応が変わってきています。2013年からほとんどの乳児は、肺炎球菌とインフルエンザ菌のワクチンを受けています。このワクチンは接種後に、かなりの割合で発熱します。発熱は、接種当日または翌日に半日以内の一過性のもので自然に解熱します。接種部位に発赤や腫れを認めることから、ほかの発熱と区別がつきます。この場合だけは、半日程度ご自宅で様子を見てもよいと考えています。全身状態が悪いときにはこの限りではありません。具合いの悪い子どもの見分け方については、次回お話しします。
(2017年8月号掲載)

具合の悪い子どもの見分け方

 発熱があるからといって、すべてのお子さんが特別に心配な状態というわけではありません。ここでは、発熱などがなくても気をつけなければならない状態について述べます。
 小児科医が診察室に入ってきたお子さんを診るときには、循環、呼吸、意識レベルを瞬時に判断します。循環は、心臓から送られる血液がきちんと全身に行き渡っているかどうかです。皮膚の色がきれいなピンク色ならば良く、チアノーゼ(青白い紫色)は良くありません。
 続いて、規則正しくゆっくり呼吸しているかを確認します。呼吸が浅く早く、ときに呻うめき声(呻吟[しんぎん])※をあげている場合には高度の呼吸障害が疑われます。循環と呼吸が悪いときには、保護者との話もそこそこに切り上げ、救命活動をしなければいけない場合があります。意識がはっきりしていないときも緊急です。お子さんの場合、眠っているのか意識レベルが低下しているのかが明らかでないこともあり、このようなときには、わざと起こしてから診察する必要があります。原因を探しつつも、同時に救急救命処置をしなければならないこともあります。胃腸炎で飲食ができないときにも、低血糖のため意識が下がることがあります。
 万が一、以上のような状態の場合には一刻も早く救急車を呼び、救命処置のできる大きな病院に行くようにしましょう。
(2017年12月号掲載)

※ 泣き声のようにも聞こえる、呼吸時の「うめき声」や「うなり声」のこと

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