イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

ネズミ豆知識(2)

イカリ消毒株式会社 取締役・一般財団法人環境文化創造研究所 理事 谷川力

ネズミ返し

 ネズミと人類との闘いの歴史は、日本の古代遺跡から出土された「ネズミ返し」から始まります。
 人に寄生して生活するネズミとしては、クマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミが知られていますが、ネズミ返しが弥生時代の集落とされる登呂遺跡の高倉式穀物倉庫の柱に取りつけられていたことを知ると、人類が農耕を始めた大昔から現代に至るまで、いかにネズミが私たちに依存してきたかがよくわかります。
 出土したネズミ返しの大きさを計測すると、意外にも大きいことに驚かされます。そこで効果を確かめるために、同じ大きさでネズミ返しを作り、登攀(とうはん)※ できるかどうかを実験的に再現したところ、高所に登ることが得意なクマネズミでも登れませんでした。
 これは、この時代にすでにクマネズミに悩まされていたというなによりの証拠です。もし、ドブネズミやハツカネズミ、もしくは野ネズミ類に悩まされていたならば、このような大きさのネズミ返しは必要なかったはずです。
 さらに、クマネズミの原産地は東南アジアであるといわれています。クマネズミの分散は、船の発達とともに広がりました。クマネズミは、英語で「船ネズミ(ship rat)」とも呼ばれます。
(2022年1月号掲載)

※ 高所によじ登ること

ネズミの利用

 ネズミは人間に害を与えるだけの生きものというイメージが強く、その被害には感染症の媒介、食害、異物混入、ケーブルの咬害などが挙げられますが、人間の役に立つこともあります。特に医学分野では、実験用のラットやマウスが人の代わりとなり、薬の効用などの基礎データが構築されています。このような実験動物としてのネズミの貢献なくして、現代の医学や生理学などの研究成果はないと思います。
 自然界でも、ネズミは捕食者であるタカやフクロウなどの鳥類、キツネ・タヌキ・イタチなどの哺乳類、ヘビなどの爬虫類の餌となり、食物連鎖の上位の動物たちを支えています。フクロウが消化できずに口から吐き出すペリットの内容物は、ネズミ類とモグラ類が多いことが知られています。また、ネズミは種子を地中に埋めて貯蔵しますが、それらは忘れられて芽を出し、森の再生に役立っています。
 一方、変わったネズミの利用法として、輪島塗りの筆があります。その最上級の蒔絵筆には、「琵琶湖のアシ原に住む毛の長いクマネズミのもの」が良いとされてきました。ところが、近年そのことに疑問を抱いた人の指摘によりその毛を調べたところ、クマネズミではなくドブネズミの毛であることがわかりました。そうすると、実験用のラットの毛でも十分に対応できるかもしれません。
(2022年2月号掲載)

ネズミの種類と名前の由来

 ネズミの中でも人との関わりがあるネズミ類をイエネズミ(家鼠(かそ))と呼び、ノネズミ(野鼠(やそ))とは区別されます。イエネズミは、ドブネズミ、クマネズミ、およびハツカネズミを指します。
 ドブネズミは、その名の通りドブに棲むネズミですが、クマネズミの名前は毛色から来ています。黒色のクマネズミの毛色が、ツキノワグマの毛色に似ているためにクマネズミと呼ばれるようになりました。日本では茶色のクマネズミが多く、黒色のクマネズミはそれほど多くはありませんが、東京の一部でも見られます(黒いドブネズミは珍しくありません)。ちなみに茶色のクマネズミはエジプトネズミと呼ばれ、区別されていた時代もあります※ 。
 一方、ハツカネズミの語源は、古称である「甘口(あまくち)ネズミ(かまれても痛くないネズミ)」の「甘口」を「廿日(はつか)」と書き誤り、見誤りしたためといわれています。「妊娠期間が20日間ほどであることからハツカネズミと呼ばれるようになった」という説もありますが、ドブネズミやクマネズミの妊娠期間もそれほど変わりません(諸説あります)。
 なお英語では、比較的体の大きいドブネズミ、クマネズミは「ラット」、体の小さいハツカネズミは「マウス」と言います。そして尾の短いネズミは「ボウル」と呼ばれます。
(2022年3月号掲載)

※ 最近は、クマネズミをタネズミと2 種にわけることもある

家庭でのネズミ対策

 ネズミは警戒心が強く学習能力も高いために、対策が非常に難しいのが実情です。ネズミが定着してから時間が経っていたり捕獲に失敗したりすると、さらに難しくなります。そこで、家庭での対策をまとめてみました。
 (1)生息環境を見直す。ネズミ対策の重要なポイントは、食物の管理、通路の遮断、整理整頓です。生息環境の見直しは、捕獲と殺鼠剤による対策を成功させるためにも必要です。食物が豊富にあれば殺鼠剤は食べませんし、逃げる場所や侵入場所が多ければ捕獲もできません。
 (2)捕獲する。捕獲には、粘着トラップを利用します。粘着トラップは粘着糊の量によって捕獲効率が異なりますので、価格が安い(糊の量が少ないことも)からよいというものではありません。なお、トラップの数は1枚より複数枚を一度に利用したほうがよいでしょう。同じ場所に多数配置することで、逃亡を防ぎます。
 (3)殺鼠剤を使う。殺鼠剤は、食べて初めて効果が出ます。よく食べる薬剤ほど効果が上がります。食べさせるためには、無毒餌による餌慣らし、物陰に置くなどの工夫が必要です。よく、「殺鼠剤を使うとどこで死ぬかわからないから嫌だ」と言われますが、ネズミは生きものです。殺鼠剤を使わなくても、どこで死ぬかはわかりません。
(2022年8月号掲載)

コロナ禍のネズミ

 2020年4月、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発出され、飲食店に営業時間の短縮や休業が要請されたことは、皆さんの記憶に新しいと思います。この要請は、飲食店から排出される生ゴミに依存しているドブネズミの生活にも大きな影響を与えました。
 筆者は、東京都内のある大きな飲食店街において、2019年と2020年のドブネズミの捕獲成績を比較しました。コロナ禍前年の2019年9月に設置したケージトラップには、14個体のドブネズミが捕獲され、トラップ設置時、路上に出された生ゴミに群がるドブネズミが観察されました。また、ネズミたちの営巣場所は、ビルとビルの隙間に確認されています。
 ところが、コロナ禍の2020年11月に同じようにトラップを設置したところ、捕獲されたドブネズミは前年より10個体も少ない4個体でした。この結果と一致するように、設置時にドブネズミの姿は確認されたものの、以前のような個体数ではありませんでした。このことから、飲食店街にいるドブネズミの数が大きく減少したと推察されました。
 これは、緊急事態宣言に伴う飲食店の休業要請により生ゴミが減少したことが、ネズミ防除方法のひとつである生ゴミの管理と図らずも一致したためと考えています。
(2022年9月号掲載)

農場のネズミたち

 農場(ここでは鶏舎、豚舎、牛舎などを指すこととします)には餌が豊富にあり、冬でも暖かく、しかも隠れられる場所が多いためネズミが快適に過ごせます。さらに、殺鼠剤やトラップが利用しにくく、衛生対策に投資することが非常に難しい環境です。
 しかし、農場におけるネズミは、豚熱、高病原性鳥インフルエンザ、サルモネラ症などの感染症の媒介者となりうるため、到底無視することはできません。これら感染症の媒介となるのはネズミの排泄物だけではなく、病原体などを体表に付けて移動したり、ほかの動物と接触したりすることで感染を広げることもあるといわれています。そのほか、飼料の食害による損失、配線ケーブルなどの咬害、各種動物へのストレスなど、経済的・精神的な被害も数多く引き起こします。さらに、断熱材を食い破るので、熱効率を下げてしまうこともあります。
 農場におけるネズミの防除方法は、ほかの場所と変わりません。(1)生態を知ること、(2)被害を知ること、予測すること、(3)防除方法は環境的対策を中心に組み合わせること、(4)IPM(総合的有害生物管理)を取り入れること、(5)生息の濃淡を区画で考え、生息の多い場所から対応すること、(6)オールアウト※ 時での対策を強化すること、(7)捕獲記録を解析すること、となります。
(2023年4月号掲載)

※ 主に養鶏場で利用される管理方法で、同じ日齢の鶏を一斉に淘汰すること。
淘汰の理由は、若い鶏と年老いた鶏を一緒に飼育すると、病気が入り込む危険性が高くなるため

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