イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

家庭でできるノロウイルス対策

首都大学東京 客員教授(執筆当時) 矢野一好

カキフライを作るときは

 今年1年は、家庭におけるノロウイルス対策についてご紹介します。第1回目は、カキフライの調理の注意点です。
 カキフライを作るときは、解凍あるいは冷蔵しておいたカキを使って、170℃の油で3分間以上加熱しましょう。厚労省が平成25年10月に改正した「大量調理施設衛生管理マニュアル」によりますと、二枚貝の加熱条件は、「85~90℃で90秒以上」とされています。
 市販のカキを使った実験※ の結果から、フライにするカキは、パン粉をまぶして冷凍しておいたカキをそのまま油に入れるのではなく、解凍するか冷蔵しておいたカキにパン粉をまぶしてフライにしないと、カキの中心部まで十分に加熱されないことがわかっています。
 冷蔵しておいたカキを使った場合は、170℃の油で2分間揚げると、カキの中心温度は80℃を少し超えます。3分間揚げると中心温度は90℃を超え、油から出した後も2分間は90℃以上を保持するので、「90℃で90秒」は加熱されることになります。すなわち、厚労省が示した二枚貝の加熱条件をクリアします。しかし、冷凍しておいたカキを解凍することなく170℃の油で揚げると、少なくとも4分間の加熱が必要になります。ここまで加熱すると、フライの表面が焦げてしまい、「美味しそう」とはいえないカキフライになってしまいます。
(2016年2月号掲載)

※ 小山田ら:食品衛生研究、53(2003)

アサリの酒蒸しを作るときは

 アサリの酒蒸しを作るときは、「貝が口を開けるタイミング」が調理時間の目安になります。
 カキ以外の二枚貝におけるノロウイルスの蓄積状況についてはあまり知られていませんが、実はカキよりもアサリの方が高いことがあります。アサリを安全に食べるためには、カキと同じように、厚生労働省が示している「85~90℃で、90秒以上」の加熱が必要です。
 二枚貝を使った加熱実験※ の結果をご紹介しましょう。この実験は、水を入れたフライパンに、イガイを並べて加熱する方法で行っています。沸騰した状態で170秒ほど煮沸すると、貝の内部はおよそ90℃に達しました。この時点で、厚生労働省が示している加熱条件をクリアします。しかし、まだ貝の蓋は開いていません。さらに加熱を続けること40秒で、貝の蓋が開きました。計算上では、厚生労働省の指針を上回る「90℃で、210秒」も加熱したことになります。
 家庭で二枚貝を加熱調理する際に貝の内部温度を測定することはかなり困難ですが、このように「貝が口を開けるタイミング」を目安に調理すれば安心です。
 昔から「蓋が開いていない貝は食べるな」と言われていたことを思い出しますね。
(2016年4月号掲載)

※ J.Hewitt:J. Food Prot, 69, 2217-2223(2006)

二枚貝の砂抜きをするときは

 家庭でアサリやシジミの砂抜きをするときは、調理用ボールなどで薄い塩水を作り、その中にパックから取り出した貝を入れて、シンクの周辺に置くことが多いと思います。しかし、貝が勢いよく吐き出す水にはウイルスが含まれている可能性があるのです。まな板や生食する食材に水が飛び散らないよう、貝を入れた容器に蓋(ふた)をしましょう。
 シジミやアサリなどの二枚貝には、カキよりも高い頻度でノロウイルスが蓄積されていることがあります※ 。ノロウイルス遺伝子の検出率は、調査報告によっても差はありますが、カキは数パーセント、アサリやシジミは十数パーセントとなっています。
 けれどこの検出率を見て、驚かないでください。現在のところ、ノロウイルスは培養できないので、遺伝子検査しかありません。すなわち、感染性の有無が判別できないのです。言い換えれば、感染性のあるウイルスの検出率は、この数字よりも低い可能性があります。
 なお、二枚貝がパック詰めされたパックの水からもノロウイルスの遺伝子は検出されますので、パックのフィルムは、まな板の上ではなく、シンクの深いところで水が飛び散らないように静かにはがしましょう。そして、砂抜きに使用した調理器具やシンクは、料理の盛り付けが終わってから片付けましょう。
(2016年6月号掲載)

※ 秋場哲哉:食品衛生学雑誌、Vol.51、p.237(2010)

家族が、おう吐したら

 ノロウイルス感染者のおう吐物には、億単位の量のノロウイルスが含まれています。そして、その飛散範囲は半径2mにも及びます。家族の誰かが家でおう吐したら、二日酔いの場合でない限り、ノロウイルス感染を想定して入念に処理しましょう。
 家庭でできる消毒方法は、市販の塩素系消毒剤※ (次亜塩素酸ナトリウムが主成分)か加熱(熱湯やスチームアイロンなど)です。吐物を除去するときは、防護具(使い捨ての手袋、マスク、エプロン、足カバー、できればゴーグルなど)を身につけ、吐物の廃棄用には厚手のビニール袋とペーパータオルなどを準備しましょう。
 処理方法は、おう吐場所によって異なります。捨てても構わないものは、塩素系消毒剤とともにビニール袋に密封して廃棄しましょう。フローリングは、消毒剤を染み込ませたペーパータオルなどで吐物の2m以上外側から拭きながら吐物に近づき、吐物そのものをペーパータオルで拭い取り、消毒剤とともにビニール袋に密封します。カーペットの場合は、吐物を除去してから熱湯をかけるかスチームアイロンなどで加熱処理しましょう。シーツやタオルケットなどは、塩素系の消毒剤に浸したあとで洗濯しましょう。厚手の布団類は、家庭では手に負えないので、ビニール袋に密封してクリーニング専門業者にお願いしましょう。
(2016年8月号掲載)

※ 使用にあたっては、商品の注意事項をよくご確認ください

入念な手洗いのために

 ノロウイルスに感染した人は、下痢やおう吐によって大量のウイルスを体外に排泄します。一度の下痢やおう吐で排泄されるノロウイルスの量は100億個以上にも及びます。にもかかわらず、10個か100個のウイルスが体内に入ればノロウイルスに感染するといわれています。言い換えれば、感染者の下痢便やおう吐物に触れた実感がなくても、感染者が触ったドアノブなど、日常生活のさまざまな場所を介して、自身の手指がウイルスに汚染され、その手を介してノロウイルスに感染するのです。このような感染経路を断つには、入念な手洗いが欠かせません。
 人に害がないウイルスを手のひらに付着させて行った「手洗い実験」の結果によると、「泡せっけん」などを使用してよく泡立て、指のつけ根や爪の間まで入念に洗うことでウイルスを洗い流すことができます。さらには、消毒剤が含まれている手指洗浄消毒剤を使用すれば、洗浄と消毒が同時に行えます。なお手洗い設備がないところや、手洗い時間が十分に取れないときは、ノロウイルスにも有効性を発揮するように調製されたアルコール製剤などの「擦り込み式消毒剤」でも消毒効果が期待できます。このような消毒剤は、多くの人が利用する施設の出入口でもよく見かけます。ご自身の感染予防はもちろん、周りの方にうつさないためにも、ぜひ利用しましょう。
(2016年10月号掲載)

「消毒剤」を上手に使い分ける

 家庭で使えるノロウイルス対策用として市販されている「用品」の種類は多種多様です。このため、どれをどの場面で使用すればよいのか迷うことが多いと思います。使用目的をノロウイルスの消毒(ウイルスの感染性をなくすこと)に限定しても、その種類はたくさんあります。大別すると塩素系消毒剤とアルコール系消毒剤があります。これらの消毒剤に共通した弱点は、「有機物に弱い」ことです。
 有機物が最も多い消毒対象は、吐物や汚物です。これらを消毒対象とする場合は、消毒剤の散布前に、できるだけ固形の吐物や汚物を除去することが肝心です。その後に使用する薬剤は、消毒する場所の材質によって使い分けます。塩素系は、色落ちやサビの原因になりますので、絨毯(じゅうたん)や金属類には不適です。アルコール系は火気厳禁です。
 手指の消毒には、消毒効果と手荒れの防止効果が求められます。一般的に、消毒効果が高い薬剤は手荒れの可能性も高くなります。手荒れが少なく消毒効果が高い消毒剤には、低濃度でも高い消毒効果があるように酸性側に調製された塩素系消毒剤や、低い濃度でも効果が発揮できるように成分調整されたアルコール製剤があります。
 いずれにしても、「消毒効果は有機物によって妨害される」という認識をもって、消毒剤を使い分けることが必要です。
(2016年12月号掲載)

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