イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食品事故を防ぐために

東京食品技術研究所 所長(執筆当時) 鈴木達夫

「ノロウイルス」から従業員を守る

 年末からのおせち料理の準備や新年会が続く今の季節は、惣菜店や飲食店では忙しい日々が続きます。この時期、食品衛生上で最も気をつけるべきことに、ノロウイルスによる食中毒があります。ノロウイルスによる食中毒は、毎年1000~2000件、患者数では1万~1万5千人も発生し、食中毒全体の半数を占めています。平成26年1月、学校給食で提供されたパンを原因とするノロウイルス食中毒では、1000人を超える患者が発生したことは記憶に新しいことと思います。
 ノロウイルス予防では、ノロウイルスを(1)持ち込まない、(2)拡げない、(3)加熱する、(4)つけないの4つの原則を守ることが必要です。
 調理施設内や食品へのノロウイルス汚染の原因として、感染した従業員からの汚染があります。朝礼など始業時に、従業員の健康チェックは欠かせません。下痢などの症状がある場合には仕事を休ませるなどの対策とともに、速やかに医療機関等で検査を受けることも必要です。また、ノロウイルスに感染してもまったく症状が出ない場合もあるので、日頃から作業前や用便後などの手洗いの”確実な励行“が求められます。
 手洗い場やトイレなど、従業員が毎日使用する場所に、行政や業界団体などで作成したポスターや手作りの注意事項を掲示して、職場の衛生意識を高め、食中毒からお店を守りましょう。
(2015年1月号掲載)

「食物アレルギー」から子どもを守る

 3歳までに食物アレルギーを発症した子どもの割合は、14.4%です(平成21年度東京都調べ)。食品アレルギーを持つ子どもの保護者が食品を選択する際に、食品表示は重要な情報源になります。加工食品には、消費・賞味期限、原材料名や製造業者名など多くの事項を表示するよう義務づけられていますが、アレルギー表示もそのひとつです。食品衛生法では「えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生」の7品目に、特定原材料として表示を義務づけています。さらに大豆、いくらなど20品目については、特定原材料に準ずるものとして表示が勧められています。
 ところで、東京都には、食品に関して自主回収報告制度があります。 平成23年度から25年度までの3年間に、東京都へ報告された自主回収は333件です。このうち、アレルギー表示の欠落は69件と約20%を占めています。自主回収となれば、回収費用が発生するだけでなく、製品や会社への信頼も揺らいでしまいます。
 食品工場においては、食品表示の責任者を決め、原材料のチェックをしましょう。その際、添加物に特定原材料が含まれていることがあるので注意が必要です。また、原材料の仕様や仕入れ先を変更したときは、再度のチェックが必要です。さらに、消費者からの問合せに対応する窓口を決めておくことも求められます。
(2015年3月号掲載)

運動会やイベントでの注意点

 5月になると湿度も高く、最高気温が30℃を超える日もある中で、運動会や地域でのイベント、祭礼なども多く開催されます。その際には飲み物や食品を提供することも多々あると思いますが、過去にはいろいろなイベントでの食中毒事故が起きています。
 イベントでの食品提供が決まったら、メニューや施設などを十分に確認して保健所に相談しましょう。生もの(刺身、寿司)など取り扱えない食品もありますし、メニューによっては取扱い上の注意事項も変わります。前日に調理して長時間保管したために食中毒菌が増殖することもありますから、食品は当日に調理してしっかり加熱しましょう。
 食品提供の準備、調理や提供に従事する人に対する注意も必要です。きちんと打ち合わせを行い、知識経験のある方から注意を受けるとともに、保健所などに相談して、事前の検便検査も行うとよいでしょう。イベント当日は、従事者の健康チェックも欠かせません。体調が悪いにも関わらず調理して大きな食中毒事故が起きたこともありますので、従事する人数にも余裕を持ちたいものです。
 子どもも大人もみんなで楽しめるイベントにするためにも、「食中毒防止の三原則(つけない・増やさない・やっつける)」をしっかり守り、準備しましょう。
(2015年5月号掲載)

夏に多い食中毒対策

 梅雨入りから9月までは、気温や湿度が高く、1年の中でも細菌による食中毒が発生しやすくなる時期です。
 細菌を原因とする食中毒では、特に「カンピロバクター」と「腸管出血性大腸菌(O157など)」の2つの食中毒に注意が必要です。カンピロバクターによる食中毒は、平成26年に東京都内で36件発生し、ノロウイルス食中毒(21件)を抜いて最も多くなりました。原因は、鶏肉の生食や加熱不足です。調理の際には、肉はしっかり中心部まで加熱しましょう。カンピロバクター食中毒では、まれに運動麻痺など重度の後遺症を残すギラン・バレー症候群を起こすことがあります。
 腸管出血性大腸菌による食中毒としては、平成23年に北陸地方で発生した焼き肉店で提供された「牛ユッケ」を原因として子どもを含む5名が、また平成24年には北海道で浅漬けを原因とした事件では高齢者など8名が犠牲となっています。子どもや高齢者が発症した場合、重症化することも多いので注意が必要です。原因としては加熱不十分な牛肉などが多く、二次汚染を防ぐために、肉とそのほかの食材を調理する際には、まな板などの調理器具を使い分けることも大切です。
 食中毒には、カンピロバクターや腸管出血性大腸菌など重症化するものもあります。しっかり予防して、暑い夏を元気に楽しみましょう。
(2015年7月号掲載)

夏の終わりは要注意

 9月になると朝晩ずいぶんと涼しくなり、気温の変化に身体がついていかず、夏の疲れが一気に出て胃痛や頭痛など「秋バテ」と呼ばれる症状が現れることがあります。では今の季節、特に食品従事者が気をつけなければならないことはなんでしょうか。
 食品従事者から食品への二次汚染は危険性の高い感染経路ですので、食品従事者は生肉を食べないなど、一般人より食生活に注意深くなる必要があります。もし、下痢や嘔吐、発熱などの症状がある場合には、調理から外れ、責任者に申し出ることが求められます。
 食品従事者が海外旅行に行く際には、十分な注意が必要です。勤務先に旅行先を届けるとともに、旅行前には検疫所のホームページなどで旅行先の衛生状態を確認しておくとよいでしょう。また旅行中は、生水や非加熱の食品は避けるようにしましょう。屋台などの衛生状態も心配です。飲食店で働かれている外国人の方の里帰りの場合も、同様です。
 帰国後は、体調変化に要注意です。ある会社では、公私にかかわらず海外に行った人全員に検便を実施していました。下痢などの症状があった場合には、早急に医療機関を受診することが大切です。その際には、国内では発症事例の少ない病気もあるので、海外に行ったことを医師に伝えましょう。
(2015年9月号掲載)

クレームへの対応

 食品事故を防ぐためには、食品衛生管理の基本である「整理」、「整頓」、「清掃」、「清潔」、「習慣づけ(または躾(しつけ))」の5S活動を毎日着実に、従業員1人ひとりが責任感を持って取り組むことが大切です。
 しかしどんなに5S活動に取り組んでも、お客様からクレームが寄せられないとは限りません。平成25年に東京都に寄せられた食品に関する苦情は5192件で、そのうち有症苦情※ が1434件と最も多く、異物混入が755件、不良食品が570件と続きます。
 皆さんの職場では、お客様からクレームがあった際の対応は決められているでしょうか。クレーム対応の責任者を決め、対応方法を従業員全員に周知し、クレーム情報の収集、管理や共有などの体制を決めておくことが求められます。お客様から聞き取る内容、クレーム品の引き取り・保管方法、店舗での在庫品の確認方法、連絡する関係先なども決めておきたいものです。特に健康への影響がある際には、被害の拡大を防ぐためにも保健所への早急な届け出が必要です。また、クレーム品を引き取った場合は、原因究明に必要なので廃棄せずに、そのままの状態で保管します。
 クレームの原因究明をしっかりと行い、施設の改善、食品の取り扱い、従業員教育などに、より一層努めることが大切です。
(2015年11月号掲載)

※ 体調を崩したといったクレーム

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