イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

身のまわりの感染症

元東京都健康安全研究センター 微生物部 部長 矢野一好

前の人が咳き込んだら、息を止めて!

 インフルエンザウイルスは、患者がクシャミや咳をしたときに飛び散る「しぶき[飛沫(ひまつ)]」を浴びることで感染することがあります。このような感染経路を「飛沫感染」といいます。この飛沫は、時速200kmで口から飛び出して、2m先まで届くといわれています。このようにして飛散する飛沫には大量のインフルエンザウイルスが含まれており、その飛沫を吸い込むと、ウイルスが鼻やのどに入り込み感染します。
 また、飛沫が乾いて水分がなくなると、飛沫核という極めて小さな粒子となって空気中を漂います。空気中のウイルスを検出するのは非常に難しいので確証はありませんが、飛沫核にもインフルエンザウイルスが含まれている可能性があります。換気が悪い人込みなどでは、インフルエンザウイルスに感染するかもしれません。
 ならば、せめてもの抵抗策として、自分の前や周辺に居る人が咳き込んだりクシャミをしたら、その瞬間に息を止めて、数秒間、飛沫を吸い込まないようにするという方法があります。効果のほどは検証が難しいので不明ですが、私が人込みで実際に励行している予防策です。しかし、インフルエンザ流行期の人込みでは、咳き込む人がたくさんいますので、息を吐くばかりで吸い込むタイミングが合わず、息苦しくて目が回ることがありますので、くれぐれも御注意を。
(2018年2月号掲載)

生焼けの焼き鳥は勇気を出して再加熱依頼を!

 カンピロバクターという細菌による食中毒は毎年多発しており、2016年には、全国で339件、患者数は3272名となっています。原因食品の代表格は、この菌に汚染された鶏肉です。厚生労働省や東京都が行った市販鶏肉の汚染調査によると、生産農場や食肉処理場によっても差はありますが、20%から100%の汚染率となっていますので、市販されている鶏肉のほとんどが汚染されていると思って対応しましょう。
 ビールにもよく合う焼き鳥ですが、時としてジューシー過ぎる串焼きが出されることがあります。けれど再加熱を頼みにくく、ついつい酔った勢いでそのまま食べてしまうこともあるのではないでしょうか。このような場面では、我慢することなく店員さんを呼んで、しっかりと焼いてもらいましょう。ただし依頼するときは、周囲に気を配りながら、「そっと」頼みましょう。
 安全の目安は、鶏肉の中心部を75℃以上で1分間以上加熱することです。目で見て確認するには、肉の断面が透明感のあるピンク色ではなく、透明感の無い白っぽい茶褐色になっていることです。
 家庭では、生の鶏肉と他の食品が接触しないように保存することと、鶏肉を取り扱ったまな板や包丁などを十分に洗浄することが重要です。できれば、肉類専用のまな板や包丁を使うようにしましょう。
(2018年4月号掲載)

「2日目のカレーは美味しい」は危ない?

 2017年3月に、東京都内の幼稚園で76名が食中毒を起こした「2日目のカレー事件」がありました。この園では、「年長組を送る会」が企画され、イベント前日に職員と園児が大きな鍋でカレーを作り、そのままの状態で翌日まで放置していました。イベント当日は、再加熱したのですが、ひと晩放置しているうちに熱に強いウェルシュ菌という細菌が増殖して、大規模な食中毒を起こしたのです。
 「カレーは、ひと晩寝かせると美味しくなる」という話を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。カレーライスはお子さんたちが好きなこともあり、幼稚園や保育園のイベントなどでは、職員と園児が一緒に調理することも多いと思います。カレーは長時間煮込むために食中毒などの危険性が低いと思われがちですが、そうでもありません。
 この事例の落とし穴は、カレーを美味しくしようとして常温でひと晩放置したことです。ウェルシュ菌は、100℃で数時間加熱しても死滅しない芽胞という殻を作って生き残ります。この芽胞が常温でひと晩放置したカレーの中で発芽し大量に増殖します。2日目のカレーはこのような状況になっていることがありますので、調理後はすぐに食べるのが安全です。保存する場合は、小分けして冷蔵冷凍保存し、食べる前には殺菌のために、よくかき混ぜながら、しっかり加熱することが重要です。
(2018年6月号掲載)

ちょっと待って!山の湧水は怖いかも?

 8月11日は「山の日」です。登山やハイキングの醍醐味は、きれいな景色と澄んだ空気、そして岩かげから湧き出る水の旨さでしょう。
 けれど、こんな楽しみに「水を差す」生物がいます。それは、クリプトスポリジウムという、直径1000分の5ミリメートルほどの原虫です。この原虫は人に感染するだけではなく、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ヤギをはじめ、トカゲやヘビなどの野生動物にも寄生します。もしこの原虫に人が感染すると、嘔吐(おうと) 、下痢、腹痛などを起こします。特に、水様性の下痢がひどく、1日に20回以上という激しい事例もあるようです。この原虫は塩素消毒にも耐えるため、時として水道を介した大流行があります。1993年には、米国のミルウォーキー市で40万人を超える住民が集団感染しました。日本では、1994年に平塚市の雑居ビルで460人、1996年には埼玉県越生(おごせ)町で町営水道による集団事例があり、最終的に8800人におよぶ町民の感染が確認されました。
 奥深い山の湧水は、上流に民家もないように見え、地層で濾過(ろか)されて透明度もあり、冷たくて美味しいと思われがちですが、ちょっと待ってください。クリプトスポリジウムが、混入しているかもしれません。時折、「この湧水は飲用ではありません」や、「自己責任でお楽しみください」などの掲示を見かけませんか。それには、理由があるのです。
(2018年8月号掲載)

この店のシメサバは冷凍ですか?

 ある日、ある居酒屋に入ると、「本日のおすすめ」メニューに「シメサバ」がありました。シメサバが好物の私は、店員さんに「このシメサバは冷凍ですか?」と質問しました。返事は「いえいえ、当店のシメサバは冷凍品ではありません」と誇らしげでした。けれど私は、「それならば結構です」とお断りしました。もちろん、店員さんはキョトンとしていました。これは、サバなどの魚に寄生するアニサキスによる、もしもの食中毒を避けるためにとった私の行動です。
 このことが居酒屋さんの風評被害になるといけないので、アニサキスによる食中毒の現状と予防策を紹介します。アニサキスによる食中毒の事件数は近年増加傾向にあり、2013年には全国で88件でしたが、2016年には124件、2017年には230件となっています。また、東京都が平成22年から26年の5年間に調査した「魚類への寄生状況」をみますと、調査した90種類の魚のうち、35種からアニサキスを検出しています。魚種ごとの検出率をみますと、第1位はマサバの内臓で約96パーセントとなっています。
 予防策としては、マイナス20℃で24時間以上の冷凍または60℃で1分以上の加熱が最も効果的です。冷凍品ではない新鮮な魚料理を提供する場合は、魚から物理的にアニサキスを取り除くことも有効です。
(2018年10月号掲載)

なぜ、インフルエンザ予防に手洗いが必要?

 インフルエンザの予防には、「うがい」、「手洗い」、「マスク」が有効であるといわれています。しかし、インフルエンザウイルスは「呼吸器感染」するウイルスです。そこで、ノロウイルスのように「経口感染」するウイルスの感染予防ならば手洗いの有効性は理解できるが、インフルエンザの予防に「手洗いが有効」なのは理解できないという方もいらっしゃるかもしれません。その疑問にお答えします。
 インフルエンザに罹(かか)った人が咳やクシャミをするとき、ほとんどの人は手やハンカチで口を押さえます。このとき、その人の手にはウイルスが大量に含まれた唾液などが付着します。この手でドアノブや電車やバスのつり革などに触れると、そこにウイルスが付着します。そして、別の人がこれらの汚染場所に触れると、その人の手指にウイルスが付着します。その人が自分の鼻や口に触れると、鼻腔や喉にウイルスが侵入して感染することになります。さらには、汚染された手で目をこすって目から感染することもあるといわれています。このような感染経路を絶ち切るためには、「手洗い」や「手指の消毒」が有効になります。
 「手洗いと手指の消毒」は、インフルエンザの予防だけではなく、食中毒や感染症予防にも有効である基本的な手段なのです。手洗いの基本は石鹸と流水すすぎですが、擦り込み式の消毒剤も手軽で有効です。
(2018年12月号掲載)

  • 全て
  • 感染症
  • 健康
  • いきもの
  • 食品
  • 暮らし