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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

安富和男先生の面白むし話(22)

日本衛生動物学会・日本昆虫学会 名誉会員 安富和男

雨と昆虫の行動

 雨の日には、昆虫が飛んでいるのをあまり見かけません。チョウやトンボは草や木の葉の裏にとまって雨が止むのを待っています。昆虫の体を覆っている外表皮(がいひょうひ)は1µm※ くらいの薄い層で蝋(ろう)(ワックス)を含み、防水加工をしたレインコートを着たようになっているので雨の粒をはじきます。酸性雨にも強いはずです。チョウの翅(はね)には鱗粉が屋根瓦のように敷きつめられており、防水はさらに能率的です。
 昆虫が雨の日に活動しないのは雨の中を飛びにくいこともありますが、もっと大きな理由は天気の良い日よりも気温が低いため、変温動物の昆虫は体温が上がらず活動する力が鈍くなるからです。たとえば6月の関東地方の場合、晴れた日には日光浴をして翅や体から太陽熱を受けたチョウは体温が摂氏30度に上がり活発に飛びます。しかし、梅雨寒の雨天には体温が20度以下となり飛ばなくなります。
 日本に32種生息するセミのうち、大きな木にとまって雨を避けたアブラゼミの鳴き声を聞くことがあります。エゾハルゼミは雨の日には鳴きませんが、梅雨晴の青空がひろがり始めると鳴き出し、やがて大合唱になります。気温や明るさの変化に敏感なセミです。  「アリが巣の出入口を塞ぐと大雨」という先人の残した言い伝えは、アリと低気圧の関係をとらえた真実味のある教訓です。
(2013年6月号掲載)

※ マイクロメートル。1000 分の1mm

夫婦で仲良く子育てをする虫

 メスが卵や幼虫の保護をするモンキツノカメムシや、オスが餌も食べずに卵を守るコオイムシはそれぞれ母性愛、父性愛のすぐれた昆虫です。上には上があって夫婦で仲良く育児にあたるほほえましい虫もいます。
 ダイコクコガネは獣糞(じゅうふん)を食べて暮らす体調約3cmのコガネムシで、大黒様を彷彿とさせ、オスの頭には恰好のよい角があって食糞性の素性さえ伏せれば魅力的な甲虫です。6月から7月にかけての繁殖期になると草原の牛糞などの下に坑道(こうどう)を掘り、雌雄が協力してその奥深くに広い育児室を作り、メスは糞の団子4個にひとつずつの卵を産みこんで守り続けます。親に守られた卵と幼虫は団子の中で安全に育って蛹化(ようか)し、翌春、成虫が巣立ちます。少数の卵を大切に育てる虫です。
 筆者は中学生の頃、大分県の湯布院温泉の近く由布岳(豊後富士)の裾野にひろがる草原で、昆虫界の大黒様に巡り会って感激したことがあります。嬉しい思い出です。
 マルハナバチは、土中の巣穴に蝋(ろう)を材料にした団子状の「巣室(すしつ)」を作り子育てをします。卵、幼虫、蛹の入った巣室は雌雄で抱きかかえ、胸の飛翔筋の振動で出した熱で温め、中の温度を常に30度以上に保ちます。ミツバチのオスはまったく労働をしませんが、ミツバチと近縁なマルハナバチのオスが保温の仕事に加わる働き者というのは不思議です。
(2013年6月号掲載)

ヘイケボタルとヒメボタル

 日本にはホタル科の甲虫が45種生息しており、そのうち光るのは14種を数えます。代表的な種類はゲンジ(源氏)ボタル、ヘイケ(平家)ボタル、次いでヒメ(姫)ボタルですが、大正時代から昭和初期にかけてはヘイケボタルとヒメボタルが混同されていました。名著といわれていた横山桐郎(よこやまきりお)著『虫』にも「平家蛍は小さく、姫蛍とも呼ばれている」と記述されていますが、両者には形態や生態に大きな違いがあります。
 ヒメボタルのメスは飛翔できません。後翅(こうし)が退化しているためです。ヘイケボタルの幼虫は、水中でモノアラガイやミヤイリガイを食べて育ちます。幼虫が水の中で生活するのは、日本のヘイケボタルとゲンジボタル以外では世界のホタル2千種のうち、わずか数種類にすぎません。一方、ヒメボタルの幼虫は陸上生活者で、陸生の巻貝オカチョウジガイやベッコウマイマイを餌にしています。日本固有種で分布の北限は青森県です。名古屋城の外堀付近では初夏の頃に多数のヒメボタルが発生し、テレビや新聞で報道される年があります。ヒメボタルに適する環境が保たれているからでしょう。
 ヘイケボタルの分布範囲は広く、日本のほか東シベリア、韓国にも生息し、平地の水田地帯から本州の高層湿原や北海道の釧路湿原にまで及んでいます。
(2014年6月号掲載)

梅雨の湿気を好むコナダニ

 コナダニの仲間にはコナダニ類、サトウダニやニクダニ類のグループがあり、穀類、穀粉(小麦粉、パン粉、キナコ)、七味唐辛子、砂糖、乾果※ 、粉乳、菓子(チョコレート、ビスケット)、かつおぶし、煮干し、干しわかめ、味噌など数多くの食品を加害します。さらに、代表的な種類のケナガコナダニによる被害は、昆虫の標本や畳にまで及びます。
 コナダニは人を刺咬(しこう)しませんが、コナダニが大発生するとしばしば皮膚炎が起こります。それは、コナダニを捕食するクワガタツメダニなどのツメダニ類が、繁殖して人の皮膚を刺したり傷つけたりするからです。
 コナダニ類に最も好適な温度は25~28℃、湿度は75~85%であり、これは梅雨どきの温湿度に合致します。このような条件に恵まれた場合、ケナガコナダニは2週間以内で1世代を全(まっと)うする速さで増えるそうです。
 近年、団地やマンションで梅雨の頃、台所の食品や畳の芯の藁に大発生したケナガコナダニが部屋の中を覆ってしまう「ダニ騒動」の事例が頻繁に起こっています。欧米風の建物を作り、その中に畳を敷く日本独特の生活様式と梅雨の気象条件が「ダニ騒動」の元凶といえます。  梅雨の晴れ間には窓をあけて風を入れるように努め、菓子などの食品は密閉容器に入れてコナダニの大発生を防ぎましょう。
(2014年6月号掲載)

※ 乾燥させた果物

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