イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

工場点検から見えてくるもの

公益社団法人 日本食品衛生協会 技術参与 佐藤邦裕

目的によって、方法や手順はさまざま

 工場点検の目的は、対象工場の現状評価を目的とするものと、現状の改善・改良を目的とするものとに大別されます。流通や大手量販などがPB商品※ の製造委託先工場を選定する際に実施する点検は前者に、製造委託先工場に対して定期的に実施する点検は後者に位置付けられます。
 現状評価を目的とした点検では、あらかじめ準備されたチェックリストに基づき点検(評価)項目ごとに評価し、採点をしていくのが一般的です。改善・改良を目的とした点検では、点検者の経験や感性を基に要改善ポイントを探索していきます。どんな工場でも、やらないよりはやったほうが良いことはたくさんありますが、そのなかから「早急に改善しなければならないこと」を見つけ出すのが点検者のスキルです。場合によっては、製造現場と管理帳票類の突き合わせなども行います。
 こうした点検では、改善を確実なものとするために改善要請点はできるだけ少なく絞り込み、改善活動が散漫にならないようにすることが大切です。具体的な改善方法や改善効果の確認方法、完了期限については、工場側との認識を統一することが最大のポイントです。
 点検者が常に心がけなければならないのは、「上から目線」や「相手の意見を聞かない一方通行の要請」をしないことです。そのような乱暴な要請に対しても、言われた側はできないとは言えない立場だからです。
(2019年4月号掲載)

※ Private Brand(プライベートブランド)の略で、小売業者や卸売業者が企画し、独自のブランドで販売する商品のこと

「チェックリスト」でチェックされているのは?

 工場の現状評価に使用されるチェックリストですが、このツールを有効活用するのは大変です。チェックリストの多くは、広範な食品取り扱い施設で使用できる体裁であり、項目ごとの文言は、極めて抽象的な表現になっています。そのため、評価の判断基準は点検者の経験や力量により左右されます。しかし、このことは一般の方にはなかなか理解されていないようで、同一のチェックリストを使用した場合には誰が点検をしても評価が同じになると思っている方が少なからずいます。
 点検者が経験を積めば積むほど評価は厳しくなり、当然チェックリストの点数も低くなります。それは工場の状況が悪くなったのではなく、点検者の「現場を診る力量」が上がったのです。そういう意味では、チェックリストは工場や施設を評価するよりも点検者の力量をチェックするフォーマットだといえないこともありません。
 経験を積んだ点検者ほど、チェックリストよりも自由記載のフォーマットを好む傾向があります。本当に必要な点検ポイントは工場ごとや点検目的ごとにそれぞれ異なること、チェックリストを使用すると収録項目をチェックすること自体が目的となり、点検者の経験や勘に基づく気づきや優先順位、重要度の違いなどの表現が困難であるため、工場点検において特に大切なのはこの部分なのです。
(2019年5月号掲載)

点検者自身が点検されている

 「人のふり見て我がふり直せ」と古くからいわれていますが、工場点検の現場でも、これとよく似た場面に出会います。日頃から工場点検で頑張っている皆さんは、工場に入る際の手洗いは万全ですか。手洗い場付近には手洗い手順などが貼られていますが、誰のためでしょうか。
 これは、工場点検に来た皆さんのためです。毎日工場に出入りしている従業員さんが、貼付されている手順書を読まなければ正しい手洗いができないなどはあり得ないことです。従業員さんと同様の正しい手洗いを、外部から来た皆さんにも実践してもらうための手順書なのです。
 ところで皆さんは作業場に入る際、手順書通りに手を洗いますか。自分でやってみてわかりにくかったら、わかりにくいところを質問するのが正しい点検です。今まで手洗いをしなくても注意されたことはないという方、工場の従業員さんはとっくに気がついてます。あなたが、発注している側の人間だから何も言わないだけです。
 手洗いだけではなく、ユニフォームや帽子の着用方法、粘着ローラーの使い方など、皆さんの一挙手一投足がすべて見られていると考えましょう。工場点検をする皆さんの目はふたつですが、点検される工場の従業員さんからは、はるかに多くの目で皆さん自身が点検されていますので、気をつけましょう。
(2019年6月号掲載)

しゃべり上手よりも、聞き上手に

 製造委託先の工場点検に行った際、演説をして帰ってくる人が少なからずいます。ほとんどの場合、相手はあなたの言うことに異論は唱えませんが、相手は本当にあなたの言うことに賛同して、指摘した箇所の改善に向かって努力しようと思っているのでしょうか。「質問や異論が出てこないのだから、理解したはず」と誤解していませんか。
 相手はできるだけ早くあなたの演説が終了し、できれば点検も終わりにしてほしいだけです。あなたの意見に反論してあなたの気分を害し、工場の評価が下がると取引内容に悪影響が出るかもしれないと考えているのです。相手は反論したくてもできないですし、したくもないということに気づきましょう。
 それでは、どうすればよいのでしょうか。まずは、できるだけ相手の考えや意見を聞き取ること、聞き役に徹することです。これは、思っているほど簡単なことではありません。相手の重い口を開かせる鍵になるのは、お互いの信頼関係です。
 製造現場の実態については、相手はあなたよりはるかに詳しく知っているはずです。やらなければならないことについても気づいているのですが、すぐにはできない悩みや制約を抱えていると考えてください。そこを上手に聞き取ってこそ、プロの点検者なのです。
(2019年7月号掲載)

「なぜなぜ分析」のすすめ

 工場点検をする際、ある程度の経験を積むと要改善点を指摘するだけではなく、なぜ改善できないのかについても考えるようになります。現場を診る力量がついてきた証ですが、誰でもそうなれるわけではありません。
 前提として、あなたが指摘したことは、とうの昔に相手も気がついていると思ってください。にもかかわらずできていないのですから、できない理由は必ずあります。なかにはできない理由だけを話したがる人もいますから、相手と一緒に相手の立場で考えること(なぜなぜ分析)が大切です。
 改善策や改善情報については、あなたは伝えるだけで、提案を受け入れるかどうかは相手の裁量に任せます。あなたの強みは、製造のプロではないものの「相手よりたくさんの製造現場を診ていること」ですから、この強みを十分に活用しましょう。他社の成功事例などを積極的に紹介して、参考にしてもらいます。ただし紹介するのは、良い事例や成功事例に限定し、失敗事例については発言を控えるようにします。
 失敗事例は、どんなに気をつけていてもどこの企業のことなのか見当がついてしまう場合も少なくありません。また、失敗事例をぺらぺらと喋るような人間には誰もなにも話してくれませんし、心も開いてはくれません。お互いの信頼関係が崩れたら、改善も進捗しないのです。
(2019年8月号掲載)

ビジネスパートナーであり続けるために

 PB※1 商品やOEM※2 商品の製造委託先に対して実施している工場点検の「本来の目的」は何か、原点に立ち返って考えてみましょう。開発販売者と製造委託先との間で合意した商品スペックに基づいて委託商品を製造し続けることが、製造委託先の役割です。開発販売者は、スペック通りに製造された商品をできるだけたくさんの消費者に販売するのが仕事です。PB(OEM)商品を通じて、販売者と製造者はビジネスパートナーの関係にあります。
 しかし現実は、なかなかそのようにはなっていません。発注する側の開発販売者の立場が製造者と比較して圧倒的に優位になっていることが多いようです。皆さんがもし開発販売者の立場であれば、製造委託先に対して圧倒的に優位な立ち位置で仕事をしているといえます。
 不良品が世の中に出てしまうと、一番迷惑をするのは誰でしょう。製造販売した企業の経済的負担も多大ですが、一番の被害者はPB(OEM)商品のブランドを信じて購入した消費者です。ですから普段から不良品が出ないように製造・販売両者が協力し合い、最大限の企業努力を重ねなくてはなりません。そのための最適な具体策を考えていくのが工場点検をしている皆さんの役割であり、消費者の期待や要望を理解した上で仕事をしていくことが必要不可欠です。
(2019年9月号掲載)

※1 プライベートブランド(private brand)の略語で、小売業者や卸売業者が企画し、独自のブランドで販売する商品のこと
※2 相手先ブランドの製品を製造すること

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