イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

目黒寄生虫館に展示されている寄生虫(4)

公益財団法人 目黒寄生虫館

寄生虫を専門に展示する「目黒寄生虫館」

 すでに当館の研究員が、「目黒寄生虫館に展示されている寄生虫」ほか本誌に寄稿してきましたが、本稿では遅ればせながら当館のご紹介をします※ 。当館は東京都目黒区下目黒にある、寄生虫を専門に標本・資料の収集、保管、調査研究、展示、教育啓発活動を行う博物館です。1953年、初代館長の医師で医学博士の亀谷了(かめがいさとる)が私財を投入して創立し、財団法人を経て、現在は公益財団法人が運営しています。博物館法のもとに位置づけられた登録博物館です。
 現在の建物(地上6階・地下1階)は4代目にあたり、1992年に竣工したものです。1階と2階が展示室で、所蔵する約6万点の標本・資料から選り抜きの約300点を展示しています。美しい展示とわかりやすい解説を心がけ、二次元バーコードを読み取れば外国語の解説を読むこともできます。約140平方メートルの狭い展示室ですが、タッチパネルによる画像と解説もご覧いただき、楽しみながら勉強できる工夫をしています。
 創立以来入館料は無料で、資産の運用益と皆様からのご寄付、ミュージアムショップの売上金などで運営しています。お子様連れのご家族、学校などの団体、カップル、学生さんからご高齢の方のグループなど、実に広い年齢層の方々にご来館いただいております。
 読者の皆様のご来館をお待ちしております。
(2024年7月号掲載)

※ https://www.kiseichu.org

クラシカウダ

 昨年、バラエティ番組の「捕れたホタルイカを生のまま味わう」という企画が物議を醸しました。何が問題だったのでしょうか。
 ホタルイカの内臓には、旋尾(せんび)線虫類の幼虫(体長5~10mm)が寄生していることがあり、生のホタルイカを内臓ごと食べると、この幼虫がヒトの体内に入り、腸閉塞や皮膚爬行(ひふはこう)症などの症状を起こすことがあるのです。
 1980年代半ばからホタルイカが生きたまま遠隔地に運ばれるようになり、各地で前記の症状の発生がみられるようになりました。業者の自主的な冷凍処理により一旦は減少しましたが、再び発生の増加がみられたため、2000年に厚生省(当時)は、生食する場合には冷凍、内臓除去、または加熱処理(ボイル)するよう通達を出しました。しかし、2001~2020年の間に56症例の報告があり、実際には未報告の感染もあると考えられるので、引き続き注意が必要です。
 この幼虫の正体は長く不明でしたが、分子生物学的解析により、ツチクジラやアカボウクジラなどのクジラの腎臓に寄生する「クラシカウダ・ギリアキアナ」という数メートルにもなる線虫だとわかりました。ただし、詳しい生活環はまだ明らかではありません。目黒寄生虫館では、この成虫と幼虫の両方を展示しています。
(2023年8月号掲載)

グロキディウム

 淡水性の二枚貝には、成長過程の一時期のみ魚に寄生するものが知られています。イシガイ科やカワシンジュガイ科(どちらもイシガイ目)の二枚貝は、浮遊性のグロキディウム幼生として卵から孵化します。グロキディウム幼生は小さな二枚貝の形をしており、同じ環境に棲(す)む魚類の鰓(えら)や鰭(ひれ)に寄生します。一定期間が過ぎると離脱し、普通の二枚貝のように底生生活となりますが、幼生期に魚類に寄生することが、その後の成長に必須となります。つまり、これらの二枚貝は、宿主となる魚類なしには子孫を残せないのです。
 環境の悪化・乱獲による個体数の減少や、移動能力の低さから、現在イシガイ目の二枚貝は国内各所で保全の対象になっています。生態学的な研究により、二枚貝の種によって宿主となる魚類に選好性があることがわかってきました。ブルーギルやブラックバスなどの外来魚種が増加し、貝の生息に悪影響を及ぼしている可能性も報告されています。健全な個体群を維持していくためには、貝そのものだけでなく、元来の魚類相とセットで守っていく必要があるのです。
 寄生性の動物が保全の対象となるのは珍しい事例です。イシガイ目二枚貝の場合、保全対象種と宿主の両方の生息環境を考慮しなければならない分、検討すべき点が多いでしょう。
(2023年11月号掲載)

ギョウチュウの仲間について

 ギョウチュウは動物に寄生する線虫の仲間です。ヒトには、盲腸にヒトギョウチュウという種が寄生します。かつて学校などで粘着テープをお尻に貼る検査が行われていたためか、本種の知名度はとても高いです。現在の日本では、ヒトギョウチュウを見かけることは少なくなりましたが、野生動物ではさまざまな種類のギョウチュウがみられます。
 ギョウチュウは、ウマ、ネズミ、トカゲ、昆虫などさまざまな動物でみられますが、変わったところでは、オタマジャクシにギリニコーラ(Gyrinicola)というギョウチュウの仲間が寄生します。ギリニコーラは、オタマジャクシが餌と一緒に水底に沈んだ虫卵を食べることで寄生が成立します。その後、消化管内で大人になって繁殖しますが、意外なことに本種は大人のカエルには寄生できません。オタマジャクシが成長するにつれて、どんどん脱落して死んでしまいます。
 ギョウチュウの仲間は、進化の過程でさまざまな宿主に侵入し、多くの種に分かれてきました。一方で、仲間内には共通の特徴も見られます。たとえば、ギョウチュウはどの種でも、雌の尾は針のように細長くなっています。また、受精卵から雌が、未受精卵から雄が誕生するという変わった性決定様式が共通してみられます。
 ギョウチュウの奥深さを感じていただけましたら幸いです。
(2024年8月号掲載)

ヒトジラミ

 シラミ類は世界に約500種がいて、哺乳類に寄生し吸血します。宿主特異性が高く、人のシラミ類は人だけに寄生するヒトジラミとケジラミです。ヒトジラミには、頭髪にすむアタマジラミと、衣類にすむコロモジラミがいます。これらは形態では区別が困難で、遺伝子レベルでもほぼ同じなので、同胞種(形態で識別できないが生態などの違いで交雑しない種)とされています。一方、前二者とは属が異なるケジラミは陰毛に寄生し、形態で明らかに区別できます。最近、駆除薬への耐性が問題になっているトコジラミ(ナンキンムシ)はカメムシの仲間で、シラミとは別の昆虫です。
 コロモジラミは衣類にすむので、人類が衣類を着始めた後に、人の頭髪に寄生していたアタマジラミの祖先からコロモジラミが分岐したと考えられています。2003年にドイツの研究者が遺伝子解析によって、この分岐時期を今から約7万年前と推定しました(後に約11万年前と訂正)。さらにアメリカの研究者は2011年に、分岐を少なくとも8万3000年前、早ければ17万年前と推定しています。人類の衣類の使用はこの時期からと示唆され、18万年前に始まった氷期により気候が寒冷化したこととも一致します。このように寄生虫の進化の研究から、人類の歴史が解明されるのも面白いと思いませんか。
(2024年12月号掲載)

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