イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

日本の魅力を再発見する

一般社団法人 Jウエルネス振興会 代表理事 江渕敦

「おもてなし」

 世界的なコロナ禍も3年が経過し、徐々に国際交流が再開されています。街に外国の方がいる風景も、少しずつ戻ってきました。
 日本の魅力である精神文化を表す言葉に、「おもてなし」があります。「もてなし」に「お」をつけた丁寧語で、「ものを持って成し遂げる」、「表裏なし」の意味で、茶道の文化から始まったともいわれます。東京オリンピック・パラリンピック招致時のプロモーションをきっかけに、「OMOTENASHI」として世界に知られる言葉になりました。
 おもてなしとは、侘び寂びの心をもって、どうしたらその人に喜んでいただけるか、満足していただけるかを想像し、それを行いで示すことです。もてなす側が何か(気持ちや芸)を差し出すと、客もその意図を受け取り、ふさわしい振る舞いをする。その「相互性」や「共鳴」までが、「おもてなし」とされています。英語の「サービス」や「ホスピタリティ」との違いについては諸説ありますが、「おもてなしは最上級の目配り、気配り、心配り。その人がいないときにも相手に思いをはせること」と解釈するとわかりやすいかもしれません。
 2021年5月の世界経済フォーラムの発表では、日本が初めて旅行・観光競争力で1位に選ばれました。自然が豊富で歴史文化も奥深く、安全で清潔な国として期待が高まっているようです。
(2023年2月号掲載)

参考:株式会社おもてなし道ホームページ

「生きがい」

 「ikigai」という言葉は、「onsen」や「omotenashi」と同じように、海外でもよく知られています。世界の長寿エリアを指す「ブルーゾーン」という概念を提唱したアメリカのダン・ベットナー氏が沖縄の長寿の理由として紹介したことから、長生きのための精神の持ち方として欧米で広く知られるようになりました。趣味や生活習慣に対しても使われる日本とは少しニュアンスが違っていて、「利他的であることの幸福感」という意味が含まれているようです。
 日本人にとっての「生きがい」は「生きる甲斐」、つまり生きる喜びや張り合いを意味しています。家族や友人との何気ない楽しい時間、打ち込める仕事や没頭できる趣味など、些細な物事や習慣の継続の中に生きがいを見出してきました。日本人にとっては、暗黙知の概念です。内閣府の調査※ などによると、友人・仲間がいて、外出頻度が高く、社会活動に参加する方々に、生きがいを感じている人の割合が高いそうです。人や社会とのつながりを持ち、アクティブであることが重要なのです。
 最近、「well-being」や「幸福」関連の本が人気なのは、人生100年という時間を前に、私たちが戸惑っているからかもしれません。もう一度足もとを見つめ直し、日々の小さな出来事や私たちの中にある小さな感情に目を向けて、幸福感に気づくことが大切です。
(2023年4月号掲載)

※ 「令和3年度 高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査」

「養生」

 「養生」とは、「生命を養うこと。健康の増進をはかること。衛生を守ること。摂生。病気・病後の手当てをすること。保養」(広辞苑)とされます。中国で老子、孔子の時代に誕生し医学に取り入れられていた養生思想ですが、日本では、江戸時代の本草学・儒学者の貝原益軒(かいばらえきけん)が『養生訓』正徳2年(1712年)で、運動・栄養・休息いずれも過不足なく生活をする、控えめな飲食、口腔衛生などの重要性を説き、庶民の生きる知恵として広がっていきました。奇しくも300年の時を経た今、国の健康プロモーションである「健康日本21」でのテーマは「運動・栄養・休息」であり、さらに「口腔衛生」も挙げられています。しかし、生活習慣病のリスクが高まる「中高年の肥満」や「若年女性の痩せすぎ」は一向に改善されていません。「健康日本21」は第3次の取組み(令和6年度~)が始まります。
 人生100年時代において予防のための生活習慣や行動が注目されていますが、「養生」が伝える、過度でないこと、つまり「ほどほど」であること、自分が自身の身体に向き合い「身体の声を聴く」こと、そして「自らの工夫」で体調を整えていくことこそが大切なのでしょう。「養生」(YOJO)は、「おもてなし」、「生きがい」と並ぶ、まさに現代日本のウエルネスにおける重要な要素なのです。
(2023年8月号掲載)

「つながり」

 人は、家族、学校、職場、地域、また昨今ではオンライン上で人と出会い、その後も「つながり」を持って生きていきます。社会や人との前向きなつながりは、人生に「生きがい」を生み、「幸福感」をもたらすとされています。
 日本ではかつて、家族や地域の人同士で支え合う相互扶助の関係が大切でしたが、社会保障制度が手厚くなると地域で支え合う文化は不要となり、「つながり」が希薄な社会に変化していきました。そして今はオンラインの時代です。コロナ禍でその傾向は一気に加速し、離れた地域の誰とでも瞬時につながれます。しかし、その匿名性や関係性の浅さから危うさが指摘されています。高齢社会の研究で、「つながり」は孤独を防ぐ健康長寿のための大事な要素であることがわかってきました※ 。さらに、企業の生産性を向上するという研究も発表され、従業員がイキイキと働くための環境づくりを目指す企業も増えてきました。
 同じ年代や属性のコミュニティに居るだけでなく、さまざまな価値や志向の人たちとの多彩な「つながり」が、人生を豊かにするのです。重要なのはデジタルとリアルのバランスでしょう。デジタル社会と高齢社会の共存する今だからこそできる、素晴らしい「つながり」のカタチがきっとあるはずです。
(2023年10月号掲載)

※ 『平成30年版高齢社会白書』

「おもてなし」「生きがい」「養生」「つながり」

 大分県別府市の鉄輪(かんなわ)温泉で、湯治を現代の暮らしに取り入れようと、2020年からシェアハウス「湯治ぐらし」を展開するプロジェクトが始まっています(湯治ぐらし株式会社)。男女別のシェアハウス※ に、学生、若手社会人から60代、80代とさまざまな年齢の人たちが集まり、生活をともにしています。入居条件は、「湯治をライフスタイルに取り入れ、その魅力を実践・発信する想いがあること」、それだけです。湯治は古くからある養生法ですが、ここでは、属性や目的もバラバラの同居者たちと日々温泉に浸かり、近隣の畑で農作業をし、育てた作物で料理をし、地域の方と交流しながら、自分自身の心や体と向き合います。どの温泉にどう入浴すべきか、指導者から湯治カウンセリングを受けて健康を目指すワーケーションプログラムも用意されています。代表取締役の菅野静さんは「地域共生、コミュニティ、自然や食、サスティナビリティ……、これらと温泉・湯治との掛け算で、さまざまな分野に特化したワーケーションや事業、産業が作れるはず」と話します。
 自分の心身と向き合い、多様性を受け入れ、他者や社会、自然を尊重し、調和しながら生き生きと暮らしていくこと。日本のウエルネスの重要な要素、「おもてなし」、「生きがい」、「養生」、「つながり」がここで実践されているように思います。
(2023年12月号掲載)

※ 湯治ぐらしには、夫婦・カップル、企業SOHO 向けなどもある

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