イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

たかが便秘と侮るなかれ

南流山内視鏡おなかクリニック 院長 前田孝文

便が出ていても便秘というの?

 世の中に便秘でお困りの方はたくさんいます。便があまり出なくて、お腹が張って痛くなると、「これは便秘だな」と誰もがすんなり理解できると思います。では、毎日便は出ているけど、コロコロ便で毎回出し切るのに苦労して大変だというのはいかがでしょうか。実はこれも便秘といえます。
 『便通異常症診療ガイドライン2023 慢性便秘症』によると、便秘は「本来排泄すべき糞便が大腸内に滞ることによる兎糞(とふん)状便・硬便、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度な怒責、残便感、直腸肛門の閉塞感、排便困難感を認める状態」と定義されています。つまり快適に排泄できないと便秘といえるのです。強くいきまないと便が出ない、残便感がある、肛門のあたりが詰まった感じがする、排便をするのに肛門の周りを押さえるなど補助をする必要がある、これらも便秘と診断する基準になっています。
 毎日便が出ているから便秘ではない、というわけではありません。快適に便を出すことができないとき、それは便秘の可能性があります。排泄は毎日のことなので、便秘であるストレスは非常に大きなものです。昔から言われますが、「快食、快眠、快便」は、毎日を楽しく過ごすためにとても大事なことですね。
(2024年10月号掲載)

便秘の対処方法

 便秘で困っているときに、どのような対処が考えられるでしょうか。便秘の対処方法を調べたアンケート調査があるのでご紹介します。
 もっとも多い対処方法は「水分摂取」(52.2%)でした。硬い便を軟らかくするために水分をたくさん摂ることは理に適っています。ただし、これは水分摂取が少ない人には有効ですが、しっかり水分を摂れている人には効果がありません。体内にある余分な水分は腸から出るのではなく、腎臓を介して尿として排泄されるからです。1日1.5ℓ以上水分が摂れていれば、それ以上飲んでも効果は期待しにくいでしょう。
 次に多かったのは「睡眠」(39.7%)です。胃腸の消化や動きは自律神経が調節しています。自律神経の働きは睡眠不足によって乱れがちです。夜にしっかり寝ることは排便の調子を整えるためにも大事なのです。「食事」(38.6%)も非常に大事です。食物繊維は便の量を増やしてくれます。また、大腸の中にいる腸内細菌のエサ(栄養)となり、腸内細菌の働きが活発となります。それによって腸の動きが良くなるので、食物繊維を多く摂ることは便秘解消のためにとても大事です。
 その他「トイレでビデを使用」(37.1%)、「ストレス発散」(31%)、「運動」(25.3%)、「市販薬を購入」(7.9%)、「病院を受診」(4.7%)と続きます。
(2024年12月号掲載)

参考文献: Tamura A, et al; J Neurogastroenterol Motil. 22(4): 677-685, 2016

便秘薬の種類

 便秘薬は大きく分けて2種類あります。1つは便の水分を増やして大腸にやわらかい便が流れるようにする薬、もう1つは大腸の動きを活発にして便が出やすくする薬です。
 便の水分を増やす薬の代表格は酸化マグネシウムです。これは市販薬としても販売されており、薬局で購入できます。腸の内側と外側でのマグネシウム濃度の違いを薄めようとする性質(浸透圧)によって、腸の外側から内側に水分が引き寄せられ、便がやわらかくなります。やわらかい便が大腸に流れることで腸の動きが良くなります。この10年ほどで病院で処方可能となったアミティーザやリンゼス、モビコールといった薬も、異なるメカニズムですが、腸に水分を保持して便をやわらかくしてくれます。
 一方、腸の動きを活発にして便を出やすくする薬もあります。センノシドやダイオウ、アロエ、キャンドルブッシュなどが含まれています。薬の力で腸を動かすので速く、強力に効きます。市販の便秘薬の多くはこちらで、刺激性下剤とも呼ばれます。刺激性下剤は夜に服用すると翌朝にすっきりと出ることが多く、調整がしやすいです。しかし、長く服用を続けるとクセになり、飲まないと腸が動かなくなってしまうので、どうしても出にくいときにだけ飲むのがお勧めです。
(2025年2月号掲載)

食物繊維は第6の栄養素

 「お腹の調子を整えるために食物繊維をたくさん摂る」ことを心がけている方は多いと思います。身体機能を維持するために必要な栄養素として五大栄養素がありますが、食物繊維は五大栄養素と並ぶ重要な栄養素として、第6の栄養素と呼ばれています。ちなみに五大栄養素とは「タンパク質」、「脂質」、「糖質」、「ビタミン」、「ミネラル」のことです。
 では食物繊維とは何でしょうか。何か加工された食品が手元にあれば、栄養成分表示をご覧になってください。食物繊維が掲載されている場合、それは糖質とともに炭水化物の項目に含まれています。実は食物繊維と糖質はとても似ています。両者の共通点は炭水化物、つまり炭(C)と水(H2O)で成り立っていることです。炭素、水素、酸素のみで成り立っている物質が炭水化物です。炭水化物のうち、人間では消化できないものが食物繊維と定義されています。食事から摂取した糖質は消化されてブドウ糖となり、エネルギーになります。一方、食物繊維は消化されずにそのまま大腸まで運ばれます。
 食物繊維は大腸にたどりつくと、腸内細菌のエサとして利用されます。腸内細菌は、短鎖脂肪酸という人間の活動にとって有益な物質を作り出します。そのため、食物繊維をたくさん食べることが「腸活」に良いと考えられているのです。
(2025年4月号掲載)

たかが便秘と侮るなかれ

 「便秘」は「頭痛」や「肩こり」などと同様に、よくある体の不調ではないでしょうか。ひどい場合には病院を受診することもありますが、基本的には自分で対処するイメージが定着していると思います。便秘は多くの人が経験する、ごくありふれたもので、それゆえ改善のための効果的な食事や運動など、生活習慣の改善案が雑誌やテレビの特集で頻繁に組まれています。
 ところで、便秘はメンタルとのかかわりがとても深いです。特に男性に多いのが、「たかが」便秘で悩むなんてみっともないとか、「たかが」便秘でこれほどつらいと感じるのは意気地がないと考える人です。一日中排便のことが頭から離れない人もいます。今まで便秘をしたことがない人がある日突然便秘になると、大変な思いをする人が非常に多いのが特徴です。逆に、うつ病などメンタルに不調をきたしている人が便秘になりやすいこともわかっています。
 便秘はメンタルが不調になることに留まりません。実は便秘の人のほうが、生存率が低くなったという研究報告があります。便秘のためにがんなど他の病気が増えたからという理由ではないこともわかっています。したがって、便秘は高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病と同様に、積極的に治療すべき病気だと考えるべきなのです。
(2025年6月号掲載)

男の便秘・女の便秘

 「便秘」が多いのは男性・女性どちらでしょうか。当然女性だとお答えになる方が多いでしょう。確かに便秘と戦っているのは女性が多いです。特に若い方では圧倒的に女性が多いです。しかし、60歳以上になると男性の便秘が急激に増えます。そして80歳を超えると、実は女性より男性のほうが多くなります。男性の便秘の特徴として、ある時を境に急激に便秘となることがあります。今までは何も考えずに1日1回以上気持ちよく出ていたのに、突然出なくなります。あるいは少しは出るが今まで通りに出ない、出したくて強くいきむけれど全然出ない、たとえ出てもほんの少しだけで残っている気がする……。
 中高年の男性が便秘になると、精神的に参ってしまいます。出ないことで不安、イライラが募り、ご家族に厳しくあたる方もいらっしゃいます。また、排便の状況を事細かに分析するために、膨大な排便日誌をつけるのも男性の特徴です。排便前後の体重を測り便の重量を調べたり、時間を正確に記録して食事との関連を調べたり、とかく男性は便秘の改善を論理的に分析する傾向があります。
 自分には関係ないと思っておられる男性の皆さま。たかが便秘と侮っていると、ある日当事者になる可能性があります。お腹の調子に気をかけて、毎日を健やかに過ごしていきましょう。
(2025年8月号掲載)

  • 全て
  • 感染症
  • 健康
  • いきもの
  • 食品
  • 暮らし