イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

素晴らしき生きものたち(2)

富山市ファミリーパーク 名誉園長/元日本動物園水族館協会 会長 山本茂行

五感で感じる季節の巡り

 日差しが強まり、気温も高くなってくると身体がうずうずしてきます。山のあちこちで山菜が育っているからです。軽トラに愛犬まりもを乗せて近くの山に出かけます。山の匂いを嗅ぎ、吹く風の音を聞きながら探索を始めます。コゴミやゼンマイ、ワラビは日当たりのよい斜面、タラの芽やコシアブラは薄日が差す林の中、ウドは湿気がある谷あいと、それぞれ生育する環境が違います。探す目線の高さもさまざまで、私は「ワラビ目」、「ウド目」などと称しています。山菜は成長が早く、数日で採る時期から外れてほぞをかむこともあります。的確に天気の波をつかむことが山菜採りの秘訣です。
 巡る季節の到来を舌で感じ取るのが山菜の醍醐味です。酢味噌和え、天ぷら、おひたし…。旬を味わう料理法は多様ですが、どれもほろ苦い野生の命が体に充満してきます。そのためには採ってすぐの処理が重要です。放置すると数時間で味が落ちてしまいます。あく取り、冷凍保存など、面倒な手間を惜しんではなりません。それも楽しい作業です。
 日が経つにつれ山菜前線は標高を上げていき、それなりの期間を楽しむことができますが、最大の面白さは、毎年同じ季節が到来しても、生きものの世界はいつも同じではないことを体感できることかもしれません。ルールを守り、くれぐれも安全な山菜採りを楽しんでください。
(2023年7月号掲載)

最近の住宅に思う

 家の周りを散歩していて感じることがあります。古い民家が空き家になる反面、田んぼだったところに新住宅が増えたことです。窓が小さく少ない作りで四角い形、まるで倉庫かガレージのようです。プライバシーや防犯、断熱を優先し、建設コストも抑える設計なのでしょうか。
 富山は冬に多くの雪が降りますが、夏は暑いところです。そのため、昔の民家は風通しを重視し、窓や戸は大きく作られていました。我が家もそうで、どこからでも庭に出ることができます。猛暑が始まる数年前まではエアコンは不要でした。風が抜けると、季節の移り変わりや生きものの気配も伝わってきます。春にはジンチョウゲ、夏はクチナシ、秋はキンモクセイの香りが漂います。カエルの鳴き声や野鳥のさえずり、時にはホタルの独特の匂いもほのかに香るなど、四季の移ろいと生きものを感じる暮らしは日本文化そのものです。田舎の田園地帯で、それを捨てるのは実に惜しいと思います。
 外と隔絶された住宅は、夏はエアコンなしでは住めたものではないでしょう。災害でインフラが止まれば大変です。大災害はいつかきます。加えてエネルギーに過剰依存しない生活は、昔への回顧話ではなく、有限な地球に住む人類の、未来への必須課題でもあるのです。自然や生きものを感じる質素な暮らし。私は今後も続けるつもりです。
(2023年9月号掲載)

リスペクト

 6月末、超高齢犬モシリ(日本犬ミックス雄)が天国に旅立ちました。生後3か月で我が家に来てから19年と1か月を共に暮らしました。この半年は自力で歩けず、完全介護の生活でしたが、朝晩の食事や排泄も良好で、深夜、静かに眠るように息をひきとりました。苦痛のない穏やかな最期だったのが何よりでした。最後となった夕食は自家製特製フードと国産和牛ステーキ。4年前に家族に加わったまりも(アイヌ犬雌)の4歳の誕生日のお祝いでした。
 先住犬のモシリは長兄としてまりもを簡単に受け入れましたが、歳のせいか「構わんでくれ」というスタンスでした。遊び盛りのまりもも、モシリがいるエリアに踏み込みませんでした。亡くなってからもそれは続いていましたが、やがてまりもはモシリの骨壺の前に座るようになり、少しずつそのエリアに行く時間が増えてきました。自由に往来するようになったのはひと月後でした。
 寝たきりのモシリの食べものや食器に決して口を付けなかったまりも。それなりに先住犬モシリをリスペクトしていたのでしょう。モシリも先住犬のアース(シベリアンハスキー雌)に大事に育てられた犬でした。我が家は代々2頭の犬が共存し、まりもは6頭目です。私の年齢上、最後の犬。独りになっても先輩犬たちの心を継いでいってほしいものです。
(2023年11月号掲載)

妊娠?食べ過ぎ?

 アイヌ犬(北海道犬)まりもを交配させてから4週が過ぎました。受精しているとすれば、妊娠中期(4~6週)の真ん中ごろになります。受精卵が着床し、胎嚢(たいのう)ができる妊娠初期(1~3週)は、人でいう「つわり」の時期。まりもは、ドッグフードを数回残し、嘔吐が1回ありました。ひょっとしたら妊娠したかも、とぬか喜びの日々でした。
 最近は食欲旺盛で、やたら食べます。でも妊娠中期の特徴である腹部膨大、体重増加なのか、単なる食べ過ぎなのか、まだ判然としません。乳房に変化はありません。動物病院で妊娠診断する方法もありますが、まりもは動物病院が嫌いときています。嫌がることは無理強いせず、自然体で時が来るのを待とうと思っています。
 行動も変わりました。大好きな散歩に出てもすぐに家に帰ろうとするし、日がな1日よく寝ます。私に体をすり寄せて寝るかと思えば、独り寝も増えました。私が外に出ると必ずついて来ていたのが、家で留守番することが増えました。加えて、ふるまいが少しおとなしくなった気がします。かみさんに甘える時間も増えました。これらの変化が妊娠のせいかどうか、判然としません。もしそうなら交配後7~9週になれば、胎動、乳腺の張り、腹部膨大、営巣行動が出てくるはずです。
 今はまりものおなかやおっぱいを撫でて、気配を探る楽しい毎日です。
(2024年1月号掲載)

クマと人の未来

 本誌がお手元に届く頃、クマは山で冬眠して春を待っていることでしょう。昨年は街に多くのクマが現れ、被害者も出ました。悲しいことです。クマと人は生活圏を分けて暮らすべきですが、それが入り乱れてしまった今はお互いが不幸。なんとかしたいものです。
 山のドングリが不作なので空腹のクマが山から街に降りてきた、とマスコミはよく報道しました。事態はそんな単純ではありません。住環境、生息域、食資源、繁殖度、生息数に密度…それらの変動とからまり、そこにクマの高い学習力や適応力が加わり、クマの動きが決まります。
 本来それは奥山での話です。時々、里山に波及するものの、昔は人との住み分けが成立していました。人が手を入れて里山ははげ山と化し、クマたちが住める環境ではありませんでした。今から数百年前の江戸・明治時代はその頂点です。しかし人の手を離れ放置された里山の木々は増え続け、日本全体が成熟した森林に覆われて、森がつながってしまいました。こうなると、日本全体が動物の単一の生息域になりかねません。学習力、適応力の高いクマはきっとそう感じているでしょう。
 そうならないうちに、未だよく解明されていないクマの調査を深め、長期住み分け戦略を立て、実行する仕組みが必要です。これは地域や市町村、県単位の問題をはるかに超えた、国の先端課題だと思うのです。
(2024年3月号掲載)

地震と愛犬

 能登半島地震で被災された方々と動物たちの安寧をお祈りします。
 高岡市のわが家も揺れました。震度5強は初体験。家がみしみしと音を立て、倒壊の恐怖を感じました。幸い被害はありませんでしたが、繰り返す余震に愛犬まりもはおびえました。わずかな家の音やテレビのVTRの警報音に反応し、庭に飛び出たり、体の震えを起こしました。
 余震を察知する速さに驚きました。揺れる音がすると同時に立ち上がり、耳を立て周りを見つめ、庭に飛び出てテラスの下に潜り込みます。今まで気にしなかった電車や高架を走るトラックの音に敏感になりました。本震を体験した場所が居間だったせいか、居間では落ち着きがなくなった時期もありました。今はGPSを首につけ、余震があれば引き寄せて離れないようにしています。
 不安なときの特効薬は散歩です。家族みんなで散歩していると落ち着くようです。帰ってくれば、私に寄り添って一緒に眠ります。
 人もイヌもそれぞれ個性や生き方があります。私にはこの土地を離れての集団避難生活は選択肢にありません。災害が起きれば自力で難局を乗り切る決意です。だから数年前に、まりもを含む山本家1か月間防災計画を立てていました。能登半島地震を経て、対策期間や複合災害への弱さを改善し、より強靭なわが家の防災策を再構築したいと思います。
(2024年5月号掲載)

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