イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

薬草に親しむ

東京都薬用植物園 主任研究員 中村耕

ゲンノショウコ

 東京都薬用植物園の民間薬原料植物区で栽培しているゲンノショウコを紹介します。センブリ、ドクダミと並ぶ日本三大民間薬のうちのひとつで、医薬品の規格基準書である『日本薬局方』に収載されています。地上部が整腸薬として用いられます。江戸時代から民間療法で利用されていて、服用すると確かに効き目が表れることから「現の証拠」といわれていました。
 ゲンノショウコは、北海道、本州、四国、九州の平地に自生しています。茎の長さは30~60cmです。7月~10月に花が咲きます。花の色は、東日本は白色、西日本は紅紫色のものが多いようです。果実は、鳥のくちばしのように細長く、熟すと果皮がくるりと反り返って、反動で種がはじき出されます。その状態がお神輿(みこし)の反り返った屋根に似ていることから「神輿草」ともいわれています。
 葉の形状は、手のひらのような形をしています。有毒植物のトリカブトの葉とよく似ているため注意が必要です。見分け方は、ゲンノショウコの葉には毛がありますが、トリカブトの葉は毛がほとんどありません。ゲンノショウコは葉柄(ようへい)の付け根に線形の托葉(たくよう)がありますが、トリカブトにはありません。また、ゲンノショウコの根は髭のような細かな根ですが、トリカブトの根は紡錘形の塊根です。
(2024年10月号掲載)

↓東京都薬用植物園「ゲンノショウコとトリカブト類(有毒)」の見分け方はこちら
https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_iyaku/plant/yudoku-top/gennosyouko-hp-m/

トリカブト

 東京都薬用植物園の冷房室で栽培しているトリカブトを紹介します。ドクゼリ、ドクウツギと並ぶ日本三大有毒植物のうちのひとつですが、医薬品の規格基準書である『日本薬局方』にも収載されています。ブシという生薬名で塊根を加工して無毒化したものが鎮痛、強心、利尿といった漢方処方の構成生薬として用いられます。トリカブトにはさまざまな種類のものがありますが、医薬品として用いられているものは、主に中国原産のハナトリカブトと主に北海道で栽培されるオクトリカブトです。
 トリカブトは、山地の林などに自生しています。茎の長さは1mから2mです。9月頃に紫色の花が咲きます。花の形が舞楽の伶人(れいじん)の冠に似ているところがトリカブトの名前の由来といわれています。
 トリカブトは、植物全体に有毒なアルカロイドを含んでおり、誤食すると嘔吐、下痢、手足や指の麻痺という中毒症状を起こし、重症の場合には死亡することもあります。葉の形状がよく似ている山菜のニリンソウやモミジガサと誤食する事故が春先に多く発生しています。見分け方は、ニリンソウは春先に白色の花を咲かせますが、トリカブトの花は秋に咲きます。また、モミジガサの葉は、手のひらのような形で、基部まで切れ込みません。トリカブト類の葉は、深く切り込んでいます。
(2024年12月号掲載)

参考文献:
https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_iyaku/plant/yudoku-top/nirinsou/https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/lb_iyaku/plant/yudoku-top/momijigasa/

ムラサキ

 東京都薬用植物園で栽培しているムラサキを紹介します。初夏に咲く花は白色ですが、根が紫色であることが名前の由来といわれています。薬用部位はその根で、生薬名を紫根(しこん)といい、やけど、ひび、あかぎれなどの治療薬に用いられます。また江戸紫※ の染料としても使われています。北海道から九州にかけて広く分布していて、かつては東京都の多摩地区にも多く自生していました。多摩地区のある高校の校歌にはムラサキが登場し、校章にもムラサキの花が用いられています。都市化・宅地化が進み、環境が変化し、ムラサキの生育に適した土地が少なくなってしまったことから、現在は絶滅危惧植物となっています。
 日本には、種子植物とシダ植物を合わせると約7000種類が生育しています。このうちの約30%の植物に絶滅のおそれがあります。環境省の「レッドリスト」には、絶滅の危機に瀕している種を絶滅危惧Ⅰ類、絶滅の危険が増大している種を絶滅危惧Ⅱ類、存続基盤が脆弱な種を準絶滅危惧として収載されています。さらに詳細な絶滅危惧のランクは、絶滅(EX)、野生絶滅(EW)、絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)、絶滅危惧Ⅰ A類(CR)、絶滅危惧Ⅰ B類(EN)、絶滅危惧Ⅱ類(VU)、準絶滅危惧(NT)、情報不足(DD)となっています。ムラサキは、絶滅危惧Ⅰ B類(EN)になります。
(2025年2月号掲載)

※ 濃い青みの紫

オタネニンジン

 東京都薬用植物園で栽培しているオタネニンジンを紹介します。
 オタネニンジンは高麗人参や朝鮮人参と呼ばれ、原産地は中国や朝鮮半島です。江戸時代に日光の薬草園で国内栽培に成功して、将軍が各藩に種子を配ったことから「御種人参」と名付けられたといわれています。5月に淡緑色の小さな花が咲き、7月には赤色のきれいな果実が見られます。薬用部位は根で、細根を除いた根を「人参(ニンジン)」、根を蒸したものを「紅参(コウジン)」といい、滋養強壮保健薬などの漢方処方に用いられています。「ニンジン」は淡黄褐色~淡灰褐色で、「コウジン」は淡黄褐色~赤褐色です。オレンジ色の野菜のニンジンはセリ科、オタネニンジンはウコギ科で異なります。ちなみに「ニンジン」という名前は、枝分かれした根の形が人の姿を思わせることが由来といわれています。
 現在、長野県や福島県、島根県などで生産されていて、長野県は全生産量の7割以上を占めています。市場で使用されているものは、中国産と韓国産が7~8割を占めています。
 オタネニンジンは直射日光を嫌うため、東京都薬用植物園では遮光して栽培しています。栽培場所は、冷房室の前と漢方薬原料植物区のカキノキの下で、前回紹介したムラサキの隣です。
(2025年4月号掲載)

ボタン、シャクヤク

 東京都薬用植物園で栽培しているボタンとシャクヤクを紹介します。
 ボタンは、中国西北部を原産地とするボタン科の落葉性低木です。日本では薬用と園芸用があり、薬用は主に奈良県や長野県で栽培されています。ボタンの花は4月中旬から5月上旬に見られ、見頃はおおむね一週間くらいです。薬用のボタンは赤紫色や淡紅色の一重の花を咲かせます。生薬名はボタンピ(牡丹皮)といい、薬用部位は根皮です。消炎・鎮静・鎮痛・駆瘀血(くおけつ)(血の滞りを改善する)作用があり、漢方処方薬として用いられます。園芸用のボタンはシャクヤクを台木として接ぎ木していますが、薬用は自根で生育させています。当園では、漢方薬原料植物区やふれあいガーデンで見られます。
 シャクヤクの原産地は中国北東部、東シベリア、朝鮮半島です。日本では薬用と園芸用が栽培されています。薬用は主に奈良県、北海道、青森県、岩手県、長野県、新潟県、富山県、和歌山県、高知県、群馬県で栽培されています。シャクヤクもボタン科ですが、こちらは多年草です。シャクヤクの花は5月上旬から6月上旬に見られます。白色から紅色の花で、ボタンの花よりも小さいです。生薬名はシャクヤク(芍薬)で、薬用部位は根です。鎮痛・鎮痙(ちんけい)の漢方処方薬として用いられます。当園では、漢方薬原料植物区で見られます。
(2025年6月号掲載)

チョウセンアサガオ類

 東京都薬用植物園で栽培しているチョウセンアサガオ類を2つ紹介します。(1)ケチョウセンアサガオの原産地はアメリカです。一年草または多年草で、7月下旬から9月上旬に白色で上向きの花が見られ、夕方に開花します。果実は下向きで、多数のトゲに覆われています。(2)キダチチョウセンアサガオの原産地は中南米です。9月下旬から11月下旬に、白、黄色、淡紅色などの漏斗型の花を下向きにつけます。別名はエンジェルス・トランペットといいます。高木または低木です。
 どちらも生薬名はダツラ(マンダラヨウ)といい、薬用部位は葉です。また、種子の生薬名はダツラシ(マンダラシ)といい、アトロピン硫酸塩(鎮痛、鎮痙薬)などの製造原料として用いられていました。
 江戸時代の外科医である華岡青洲は、チョウセンアサガオを主成分とした麻酔薬を作り、世界初の全身麻酔手術に成功しました。チョウセンアサガオ類の成分のヒヨスチアミンやスコポラミンなどのトロパンアルカロイドは、一般に副交感神経抑制作用、中枢神経興奮作用を示します。そのため、摂食した場合、口渇、瞳孔散大、意識混濁などを引き起こします。トロパンアルカロイドは、全草(植物全体)に存在しています。種子はゴマ、つぼみはオクラの果実、根はゴボウにそれぞれ似ているため、誤って食べて食中毒にならないように注意が必要です。
(2025年8月号掲載)

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