イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食物アレルギー当事者から、食品企業へのメッセージ

認定NPO法人 アトピッ子地球の子ネットワーク 赤城智美

言葉の意味がわからない

 食品の原材料表示に使われている原材料名の中に、消費者が日常では使わない言葉が出てくることがあります。たとえば、カゼイン、卵殻粉、乳化剤などについて、一般の人は「詳しくは知らない」場合でも、スルーして問題なく過ごせます。一方、食物アレルギーがある人の場合は「詳しく知らない」ので、安全のためにとりあえず避けるという人もいます。
 乳化剤は乳成分と関係ありません。ただし、乳化剤がレシチンの場合、大豆アレルギーの人にとっては注意が必要です。卵殻粉には卵白や卵黄は含まれていませんし、アレルゲン性もありません。また、カゼインは全粉乳や脱脂粉乳より乳タンパクを多く含んでいるため、乳成分がアレルゲンの人は特に注意しなければならないのですが、そのことを知らない患者さんもいます。タンパク加水分解物※ は、アレルゲン性はないとされていますが、まれに発症事故があるため、「何の」タンパク加水分解物なのか個別に表示されるべきです。しかし残念ながら、アレルギー表示の個別表示はなかなか進んでいません。
 食品企業にとっては当たり前に使われている言葉でも、日々新たに消費者となる人が生まれている(新しく患者になる人もいる)と考えて、説明や啓発を続けてくださることを願っています。
(2024年10月号掲載)

※ 小麦や肉などを原料とする食品素材。食品にうま味やコクをつけるために使用される

治療したら食べられるようになる?

 食品事業者さんとの勉強会でお話をすると「食物負荷や免疫療法を受ければ、食物アレルギーは治って食べられるようになるのですか?」と質問されることがよくあります。
 専門医の指導の下でアレルギーの原因食物を少しずつ食べる(負荷する)治療は広く普及しています。毎回の食べる量は、患者の状況に合わせて数ミリグラム単位の微量な場合もあれば、数グラム単位で始める人もいます。治療目標として「食べられるようになる」ことが理想かもしれませんが、実際は「シリンジで数ミリグラムを測り、毎日数滴を維持量として口にする」ことが精一杯で、それ以上は進まない(分量を増やせない)人もいます。コップ2分の1までは飲めるけれど、コップ1杯は飲めない人もいます。つまり、体の感受性や発達年齢、アレルゲンタンパクの種類によって治療の成果は異なると考えざるを得ません。
 それでも「アレルゲンを負荷する治療」に意味があるのは、「誤ってアレルゲンを口にしてしまっても大事に至らないようにする」ことを治療目標にできるからです。微量混入では発症しないが、原材料として使われているものは食べられないという人なら、表示を見て安全を確認して食品を選ぶことができます。訪れるレストランやメニューを慎重に選べば、外食も可能になります。
(2024年12月号掲載)

トングや菜箸

 食物アレルギーがある人に誤食経験の聞き取りをすると、弁当店や惣菜店でトングを使って消費者が自分で食品を取る場面や、ホテルなどの立食会場で症状が出た経験を話す人がいます。これは食品それぞれにトングを置いていても、使い分けが利用者に任されているので「トング経由の混入」の可能性も高いと考えられます。
 店員が惣菜を容器に入れてくれるお店では、プライスカードにその食品に使われている特定原材料を明記しているところも増えました。店員はもちろん惣菜ごとにトングを分けているはずです。ホテルの立食などでは、食品ごとの原材料をウェブサイトやファイルで確認できるようにしたり、食物アレルギーがある人には専用のトングを渡して食品を取るよう促すところもあります。いずれもトング経由の混入を可能な限り避ける方法をとっているのでしょう。しかしこの方法も、「店員はトングの使い分けを間違わない」、「患者は誤ってアレルゲンを含むものを触ったりしない」という前提に立っているものです。せっかく使い分けを意識しているお店の方には申し訳ないのですが、対策をしているところでも発症してしまった事例は少なからずあります。トングや菜箸のような小さな接触面からでも、アレルゲンに触れたものを患者が食べれば発症する可能性があることを知っていてください。
(2025年2月号掲載)

「グルテンフリー」が悩ましい

 (1)輸入品の「フォー」のパッケージの表面に大きくグルテンフリーの文字がデザインされていて、裏面の原材料表示欄には日本語のシールが貼られ、「グルテン」と書かれていた。(2)パン屋で販売されていた「米粉パン粉」の原材料表示欄には、グルテンと書かれていた。(3)パン屋の店頭に「米粉パン」のコーナーがあり、POPに「アレルギーの人にも!」と書かれていた。さらにプライスカードにはグルテンフリーと書かれていた─これらはいずれも小麦アレルギーの人が勘違いして喫食し、食物アレルギーを発症しています。
 (1)と(2)の事例では、原材料表示欄には「グルテン」と明示されていたのに、消費者が勘違いし、表示をきちんと確認しなかったため事故が起こりました。(3)は表示義務の対象ではない店頭販売でしたが、「卵と乳成分を含まないものだから、アレルギーの人にも!とPOPに書いた。小麦が混入していないという意味ではない」とパン屋さんは説明していました。(3)は紛らわしいメッセージに問題がありそうです。この3つの事例は、消費者だけではなく、販売する立場の人も気を付けなければいけない事例ではないかと思います。リスクコミュケーションのツールとしての表示の役割を思い出して、どのように表現すれば誤解事例が発生しないか、考えていただけるとありがたいです。
(2025年4月号掲載)

「アレルゲンフリー」が悩ましい

 食品企業のお客様相談室に、食物アレルギーの患者やその家族から「アレルゲンフリー」、「アレルゲン不使用」と表示してほしいという要望が寄せられることがあります。食品選択に苦労する患者のことを考えると、その要望は共感を呼びます。しかし、リスクマネジメントを考える立場に立つと「危険だ!」と言わざるを得ません。
 「アレルゲンフリー」と謳われた商品は、特定原材料や特定原材料に準ずるものについてフリーだという信頼性が非常に高いと思います。しかし一方では、食物アレルギーがある人に発症原因についてアンケートをとると「アレルゲンフリーと表示された製品を喫食して発症した」という回答が出てきます。調べてみると、多彩な商品に「アレルゲンフリー」や「不使用」と書かれていましたが、「材料は使われていない、含まれていないとは表現していない」という製造者や「特定原材料は使っていないが、それ以外については考えていなかった」という製造者もありました。
 消費者は、企業の考え方やアレルゲン管理の力量についての判断はできません。パッケージに書かれた表現だけを頼りに商品を選択しています。フリーや不使用は患者にとってのあこがれですが、誤認・誤食のきっかけにもなっているのが現状です。
(2025年6月号掲載)

いつもありがとう

 食物アレルギーに関わる仕事を続けていると「時代とともにポピュラーなアレルゲンが変化している」ことに気づきます。私たちのような市民団体でも患者統計を取り続けていますが、30~10年前くらいまではその変化が穏やかでした。最近は変化のスピードが速くなっていると感じます。その変化スピードに連動して、患者さんの健康危害の発生を防ぐために表示義務となる特定原材料も、変化を余儀なくされています。外食産業や加工食品のトレンドによって私たちの食卓は目まぐるしく変化していますが、その「食卓の変化」こそが「患者の発症原因となる食品のトレンド」と深く関わっているのです。
 食物アレルギーはタンパク質に対する生体防御反応であるため、タンパク質であれば何にでも反応する可能性があります。しかし実際は、国によって、あるいは時代によってアレルゲンとなる食品のトレンドがあるのですから、「なんらかの法則」があるはずです。食べる頻度や食べ方も消化吸収に影響を与えますが、加工品から、あるいはハウスダストとして生活環境中に存在する量(吸入や接触する機会)なども、人の体に影響を与えます。人とタンパク質と免疫の関係は誰にも制御できないものですが、安全管理が責務である食品企業にとって、アレルゲンコントロールは厄介な課題だと思います。そのお仕事にいつも感謝しています。
(2025年8月号掲載)

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