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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

サボテンが地球の未来を救う

中部大学 応用生物学部 堀部貴紀

サボテンが地球の未来を救う

 サボテンが地球の未来を救う可能性を秘めていることをご存じでしょうか。
 気候変動や人口増加への対応が喫緊の課題である現在において、驚異的な生命力を持つサボテンは新しい作物として世界で注目を集めており、食品・家畜飼料・加工品原料として30か国以上で栽培されています。2017年には、国連食糧農業機関(FAO)が「食用サボテンは世界の食料危機の大部分を救う答えになり得る」との見解を表明しています※ 。
 食用に利用されるウチワサボテンは、最高気温55度以上の環境下でも生育することができ、数か月程度であれば断水しても枯死することはありません。栽培に必要となる水の量も、イネやトウモロコシに比べて4分の1以下です。さらに乾燥地だけでなく、アジア多雨地域の非常に痩せた土壌でも栽培が可能です。このような驚異的な生命力は、ほとんどの作物には到底まねできないサボテンの魅力です。今後、作物としてのサボテンの重要性はますます高まっていくと思われます。
 1994年に、シチリアのジャーナリストはサボテンを「トゲの下に眠る財宝」と描写しました。サボテンは私たちの未来を支える力を秘めています。宝探しに参加する科学者の1人として、サボテンの魅力が広く認知され、活用が進むことを切に願います。
(2025年1月号掲載)

※  Inglese, P et al.,(2017). Crop ecology, cultivation and uses of cactus pear. FAO.

サボテンが地球温暖化防止に貢献する

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書によると、今世紀が終わる頃には、世界の平均気温が最大で3.3~5.7度も上昇すると予測されています。
 現在、サボテンを植林に使用し、空気中の二酸化炭素(CO2)を固定する試みが世界の各地で行われています。サボテンを植林に使用することにはどのような利点があるのでしょうか。まずはやはり、乾燥や高温に強いことです。サボテンであれば、大きな樹木が育たないような乾燥地域でも植林が可能です。また、火事になるリスクもほとんどありません。次に、成長するスピードが速く、CO2の吸収量が大きいという特徴もあります。たとえば、スギやヒノキの年間炭素吸収量は1ha当たり1~3トン程度ですが、サボテンは1ha当たり2トンを超えるといわれています。
 さらにもう一つ、サボテンには非常に面白い性質があります。なんと、空気中のCO2をバイオミネラルと呼ばれる結晶に変えてしまうのです。バイオミネラルに固定されたCO2は分解しにくいため、サボテンが枯れた後も長期間地中に残ります。つまり、サボテンはCO2を長く安定的に土壌中に閉じ込められる可能性があります。筆者の研究室でも現在、サボテンを活用したCO2長期固定技術の開発を進めています。
(2025年3月号掲載)

サボテンによる土壌環境の浄化

 植物の根は、土壌から水とともに多くのミネラル成分(重金属)も吸収しています。しかし、これらの成分が植物体に過剰に蓄積してしまうと、植物の生育は悪くなり、枯れてしまうこともあります。このような過剰なミネラル成分によるストレスを「重金属ストレス」と呼びます。筆者らの研究により、ある種のウチワサボテンは非常に強い重金属ストレス耐性を持つことが明らかとなりました。たとえば、このサボテンは日本の環境基準の1000倍を超える濃度の鉛やカドミウムを含む土壌でも栽培が可能でした。さらに、このサボテンは亜鉛、鉄、カドミウムなどの重金属を非常に高い濃度で体内に保持でき、重金属の蓄積能力が高い植物である「超集積植物」に該当することも明らかとなりました。
 私たちはこのサボテンの性質を利用し、サボテンを環境修復技術に使えないかと考えています。「植物の機能を利用して環境修復および汚染浄化を行う技術」のことをファイトレメディエーションと呼びます。具体的には、植物体内に重金属などの環境汚染物質を吸収、そして蓄積させ、植物体を除去することで環境を浄化する手法がもっとも一般的です。サボテンは高温や乾燥にも強いため、乾燥地でのファイトレメディエーションに活用できると思われます。
(2025年5月号掲載)

サボテンが世界の食料増産に貢献

 畜産業は、世界全体の農業産出額の約40%を占めるとても大事な分野です。しかし、世界経済が発展し人口が増えるにつれて、家畜の飼育が増え、それに伴って「飼料」の必要量が急速に増えてきています。
 このような状況のなか、世界の乾燥地域においてサボテンの飼料利用が進められています。すでに多くの国で飼料として採用されており、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、ウマなど多くの家畜が好んで食べることがわかっています。
 サボテンは栽培面でもたくさんのメリットがあります。サボテンの栽培には農業機械や資材など必要となる投資が少なく、収量も乾燥地域においては穀物を含む他の作物と比較しても高い値になります。またサボテンは水分を多く含むため、飼料として与えると家畜の飲水量が大きく減少し、水の節約につながります。さらに近年、サボテンを含む飼料が家畜の成長や肉質に与える影響についても、たくさんの研究が行われています。その結果、サボテンは家畜の飲水量を減らすだけではなく、飼料摂取量の増加、家畜体重の増加、乳量の増加など、さまざまな効果をもたらすことが報告されています。地球温暖化や人口増加に対応するための対策が急務となる現在、サボテンが世界の食料生産において果たす役割はますます大きくなると思います。
(2025年7月号掲載)

サボテンと地雷原復興

 今回は、著者が日本企業(IOS株式会社)と共にカンボジアで行っている、サボテンを使った地雷原復興事業について紹介します。
 1970年頃から20年以上続いた内戦の間に、カンボジアには400~600万個以上の地雷が敷設されました。現在も地雷の除去が進められていますが、地雷を除去した土地の有効活用が課題となっています。地雷原跡地が広く分布する農村部には収益性の高い産業が少なく、住民の生活水準は都市部に比べて低くなっています。
 そこで著者らは、サボテンの産業利用を目指した栽培試験を2022年に開始しました。生産したサボテンは野菜や果実、家畜飼料、加工品原料などとして利用される予定ですが、同時にカーボンオフセット事業も進めています。つまり、サボテンを使って二酸化炭素を吸収し、その吸収量を取引することで利益を生み出すビジネスモデルの構築を目指しています。
 このプロジェクトを通じて得られた成果の1つは、サボテンが乾燥地だけではなく、カンボジアのような雨の多い地域でも旺盛に育つとわかったことです。なんと、田んぼの跡地のような湿潤な場所でも枯れることなく育ちました。サボテンの驚異的な生命力は、地球温暖化の緩和にも貢献し、将来の私たちの生活を支えるようになるかもしれません。
(2025年9月号掲載)

サボテンに含まれるネバネバ成分

 サボテンの茎を切って、その切り口に触れたことはありますか。手で触ると、ネバネバしているのがわかります。これはサボテンの細胞内に含まれる粘液によるもので、ほぼすべてのサボテンは葉や茎、果実内に粘液を含んでいます。
 この粘液にはどんな役割があるのでしょうか。粘液は主にアラビノースやガラクトースといった単糖がつながってできた多糖類という物質からできていて、水分を引きつける性質があります。そのため、粘液の主な役割は、サボテン内部の水分をしっかりと保持し、外に逃がさないようにすることだと考えられています。
 この粘液、なんと私たちの暮らしに役立つ可能性があります。近年、サボテンに含まれる粘液を産業利用しようとする研究が盛んに行われています。たとえば、粘液の生理作用として、血中コレステロールを減少させる作用や血糖値の上昇を抑制する作用、抗潰瘍作用、抗酸化作用などが報告されており、機能性食品素材としての利用が期待されています。さらに、生分解性(微生物によって分解される性質)のポリマーとして活用する研究も進められており、安全性の高い食品用フィルムやコーティング剤、添加物(増粘安定剤、乳化剤)などとして、食品業界や化粧品業界から注目を集めています。
(2025年11月号掲載)

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