イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

衛生視点で感染症・災害時のBCPを考える(3)

オフィス環監未来塾 代表 中臣昌広
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避難生活と防災トイレ

 令和6年元日の能登半島地震の被災地では、5万戸超で断水が続きました。断水で苦労したのが、トイレの確保と排泄物の管理でした。断水のときは、井戸水や川の水、プール水などをバケツに入れ、トイレの流し水として便器に一気に流す方法があります。ただし、下水道や浄化槽の損傷、停電で下水中継ポンプ場の装置が稼働できないときは、便器に水を流すことはできません。
 ここで、断水時に利用可能な防災トイレ4種類を見ていきましょう。
 (1)携帯トイレ:洋式便器などに設置して使用します。し尿を袋に溜めたあとに凝固剤を入れるタイプ、袋に吸水剤が入ったタイプがあります。
 (2)簡易トイレ:一例として、段ボールを組み立てて座る部分をつくるものがあります。電気が使える状態ならば、電動式の簡易トイレもあります。排泄後、ボタン操作で自動的に袋の口が閉まり、袋が切り離されます。
 (3)マンホールトイレ:下水道管に接続する排水設備のマンホール上に設置するものです。通常は、学校や公園などに専用のマンホールが設置されています。
 (4)仮設トイレ:工事現場で使われるような屋外設置のトイレです。トイレの下に便槽があり、定期的に回収することが必要です。電気が復旧し、仮設水槽が設置できると、水洗トイレと同様に使用できるタイプもあります。
(2025年1月号掲載)

避難生活と防災トイレ・衛生管理ほか

 令和6年元日の能登半島地震の被災地では当初、既存のトイレが汚れて使用できない状態になりました。支援活動をした保健師によると、活動初日は避難所のトイレ清掃だったそうです。災害時のトイレの衛生管理などを考えてみます。
 (1)トイレの設置個数:国のガイドラインでは、発災当初で約50人当たり1基、長期化するときは約20人当たり1基の割合となっています。(2)排泄物袋の保管:体育館裏の軒下や校庭の片隅にブルーシートをかけて保管します。なお、排泄物袋の収集運搬は通常のパッカー車ではなく、荷台に平置きできる車が使われます。(3)仮設トイレの便槽:排泄物を貯留する便槽の容量は、300~450L程度です。1人1日当たりの排泄物量は、流し水を含めて約3Lと見込まれます。避難者100人、仮設トイレ2基(便槽450L)で試算すると、3日間で満杯になります。(4)トイレの清掃:熊本地震被災地の避難所では、保健師の助言により、午前2回、午後2回、夕方1回の計5回の清掃が実施されていました。清掃実施者は、感染予防の観点から、清掃用の服やマスク、使い捨て手袋を着用するのが望ましいでしょう。清掃後のトイレの消毒は、ノロウイルス感染予防対策で次亜塩素酸ナトリウム1000ppm(0.1%)の使用が推奨されます。
(2025年3月号掲載)

能登半島地震の教訓(2)

 2024(令和6)年1月に起きた能登半島地震の発災当初の避難所で、記憶に残る光景がありました。体育館や公民館のロビーで、ブルーシートに座り、一枚の毛布を複数の人が共用して足を温めていました。ブルーシートの脇には、脱いだ履物が並んでいました。避難者は寒さから身を守るのに精一杯で、十分な衛生の確保まで至らないのは致し方ないと感じたのです。
 (1)現状を認めつつ、目指すものを描く:感染症予防の観点から、生活スペースでの土足が長期間継続するのは望ましくありません。十分な数の石油ストーブが供給されたり、電気が復旧してエアコンが使用できるようになったりしたときが、土足禁止にするチャンスです。(2)衛生視点をもつ人材をつくる:被災地で活動した保健師から「巡回した避難所で改善点を運営者に伝えたところ、衛生の視点が不十分で、理解してもらえなかった」と聞きました。平時に、感染症の基礎知識、消毒法、換気の方法など衛生に関する知識・スキルを身につけた人材を多くつくっておくことが大切です。(3)感染症発生を想定する:複数の新型コロナ感染症患者が出た避難所があり、教室の一つを隔離スペースにしました。有症状者を早期発見するための保健係の配置、感染症発生源となり得るトイレの清掃・消毒が大切です。
(2025年5月号掲載)

酷暑期避難所演習の教訓

 2024(令和6)年7月、避難所・避難生活学会が実施した大阪府内の小学校体育館での酷暑期避難所演習に1泊2日で参加しました。その日の昼間の気温は35.4℃でした。体育館に空調はなく、可搬型のスポットクーラー4台と扇風機数台が置かれましたが、熱気と湿気で汗が流れて、ポロシャツが重くなりました。「完全な停電を想定したら、多数の熱中症患者が出ただろう」と思ったのです。そこで、今回の演習から得た教訓を衛生視点でみていきましょう。
 (1)屋外泊も選択肢に:午後12時に校庭に出た時、風が吹いて涼しさを感じました。体育館にとらわれず、車中泊や屋外のテント泊を選んでもよいと思いました。昼間は、校舎1階で過ごすという選択肢もあります。(2)体温を下げる服装:熱中症対策の専門家は、演習時に体温の上昇を抑えるのに、半袖、半ズボン、裸足を推奨しました。手足の血流の関係で、熱が放散しやすくなるためです。(3)温度が高い場所から遠ざかる:サーモグラフィカメラで室内の表面温度を測ると、就寝時にはベッドより床のほうが高くなりました。ベッドで寝ることが熱中症予防につながります。(4)声かけと熱中症対策:熱中症で思考力が低下し、体が動かなくなる可能性があります。お互いの声かけやこまめな水分補給が大切になります。
(2025年7月号掲載)

酷暑期避難所演習の教訓(2)

 前回に引き続き、2024(令和6)年7月に避難所・避難生活学会が実施した酷暑期避難所演習の教訓をみていきましょう。衛生視点での課題や改善策は次のとおりです。
 (1)方位と風の流れ:午後12時に校庭に立った時、心地よい南風を感じました。屋外避難で車中泊やテント泊をする場合、窓やテントの入り口から南風が入りやすいように、駐車位置やテントの設置場所を工夫するとよいでしょう。(2)屋外の入り口近くは要注意:演習時に保健所の環境衛生監視員から「一時的に体育館内の一酸化炭素濃度が高くなりました。入り口近くに簡易シャワーが設置され、熱源の灯油ボイラーを稼働したからです」と注意がありました。燃焼装置や小型発電機は、入り口近くで使用しないことが重要です。(3)水の衛生:調理に使われた教室の水は、消毒用塩素の濃度がゼロでした。夏休み中の学校は、高温と相まって、受水槽内の水の動きがほとんどないためです。調理には、水道直結の水を利用するのが望ましいでしょう。(4)防災テント:演習時には、天井が開き四方を囲むタイプの防災テントが、一部で使われました。テント内は風が通らず、夜間でも温度30℃、湿度70%を下回りませんでした。就寝時も寝苦しく、夏季の防災テントの使用は、熱中症を誘発してしまうかもしれません。
(2025年9月号掲載)

奥能登豪雨被災地の避難所を見て

 2024(令和6)年10月の中旬、奥能登豪雨から3週間後の輪島市と珠洲(すず)市を訪れました。河川の氾濫や堤防の越水による水害で、複数の仮設住宅が床上浸水しました。現地の避難所を見て、いくつか気づいた点があります。
【1】泥とレジオネラ肺炎:避難所の玄関内側に、靴箱が置かれていました。長靴には乾いた泥が付着していました。過去には、レジオネラ属菌を含む土埃を吸い込んで肺炎を発症した事例があります。感染予防策として、(1)靴箱の屋外設置、(2)靴箱の前面にビニールシートをかける、(3)靴をしっかり洗うなどが有効です。
【2】弁当と食中毒菌:地元自治体の尽力で、午後には夕食用弁当が避難所に届きました。運搬用の発泡スチロール箱に積まれた弁当容器の表面温度は50℃近くでした。食中毒予防として、(1)調理後は20℃以下で管理、(2)運搬時の温度管理、(3)できるだけ早く食べることが重要です。
【3】石油ストーブと化学物質過敏症:避難所の寝るスペースの脇に、季節外れの石油ストーブ3台が置かれており、灯油の臭いがしました。揮発性有機化合物を吸い込むことで体調を崩す人がいるかもしれません。対応策として、(1)冷暗所に保管、(2)換気を行う、(3)化学物質過敏症を知ってもらうためにポスター類を掲示するなどがあります。
(2025年11月号掲載)

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