イカリホールディングス株式会社 よりそい、つよく、ささえる。/環文研(Kanbunken)

COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

食品衛生に取り組むあなたへ(7)

リテールHACCP研究所 山森純子

アンコンシャス・バイアス

 アンコンシャス・バイアスとは、「無意識の偏ったものの見方」のことです。各人が過去に経験したことによって意図せず形成されるもので、誰しもなんらかのアンコンシャス・バイアスを持っていますので、持っていること自体が問題というわけではありません。
 一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所代表理事の守屋智敬氏は、私たちがアンコンシャス・バイアスと向き合い続けていくためのポイントとして、一人ひとり、そのときどきと真摯に向き合うことが大切だと述べ、十把一絡げなものの見方ではなく「これまでの100人に影響がなくとも、101人目に影響があるかもしれない」という気持ちで臨むことを薦めています。
 食品の製造や調理の現場は、日本固有の文化や風土と関係性の深いものですが、アンコンシャス・バイアスという視点で改めて見直してみるとどうでしょうか。
 たとえば、「これは男性(または女性)がする仕事」と決められている仕事はありませんか。「男性なのに(または女性なのに)期待通りでない」という評価や、「若い世代(またはシニア世代)だから、こうであるに違いない」というように決めつけてしまう場面はないでしょうか。未来に想いを馳せ、変革を開始する時です。
(2023年6月号掲載)

センスメイキング

 アメリカの組織心理学者カール・ワイクによる「センスメイキング」という概念があります。早稲田大学大学院教授の入山章栄氏が、「日本企業に最も必要なことのひとつ」と紹介したことで注目されました。
 カール・ワイクは、センスメイキングを「文字通り、意味(sense)の形成(making)を表現している上手いネーミングである」と述べ、センスメイキングとは、「自らが望む意味形成の実現のために、環境に能動的に働きかけるという姿勢であり、それは受動的に行う解釈という行為にはない」と主張している点は興味深いです。
 自分たちを取り巻く環境について、「手を加えることのできない、与えられたもの」と認識するか、それとも、「環境は、自らの意思で創造や改変できる可能性があるもの」と認識するかでは、未来に大きな違いをもたらすでしょう。
 自分たちの働く場所がどのような場所だったら自分も仲間もやりがいを感じ、活き活きと働いてくれるでしょうか。また、商品をお買い求めいただいたお客様が、どのような気持ちを感じてくださったら自分たちは嬉しく思えるでしょうか。
 想いを持って実現したい未来があるとき、センスメイキングの視点で考えて行動することは、その実現の一助となるはずです。
(2023年7月号掲載)

リスクコミュニケーション

 リスクコミュニケーションとは、「社会を取り巻くリスクに関する正確な情報を関係者間で共有し、相互の意思疎通を図ること」です。
 同志社大学心理学部教授の中谷内一也(なかやちかずや)氏が、そのリスクコミュニケーションについて興味深い見解を述べています。
 中谷内教授は、さまざまな分野の専門家が「リスクコミュニケーションに期待する」と述べるとき、いわゆる発信する側の見解である「その事象に関するリスクは決して高くないこと」や、「したがって、過度に不安に感じる必要はない」というような結論で相手を納得させ、承認してもらうことを期待する意が含まれているのではないかというのです。そしてそれは「説得的コミュニケーション」であり、リスクコミュニケーションとは似て非なるものであると述べています。
 このことは、お客様に対し、私たちが食品衛生や食品安全に関するご報告を行う場面においても示唆に富むものです。その場で決着させようとするのではなく、一旦持ち帰りとすることが総合的に良い場合もあるでしょうし、そのような経験からなんらかの新しい視座を得られることがあるかもしれません。受け手が意見を押し付けられたと感じることがないよう、難しい局面ほど、双方向的なコミュニケーションを意識することが大切です。
(2023年8月号掲載)

ウェル・ビーイング

 「ウェル・ビーイング」は、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念です。1946年に世界保健機関(WHO)憲章前文に初めて登場し、『健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること』と定義づけられました。
 「日本語版心理的ウェル・ビーイングの尺度」として西田裕紀子氏によって開発され、その妥当性も確認されている6つの尺度は、食品衛生や食品安全とどのように結びつきがあるのか、相互にどのような影響を与えあっているのかという点でも、非常に興味深いものです。
 6つの尺度は、過去・現在・未来にわたる自分と他者と環境の認識に関係しています。過去と現在の自分の人生に意味を見出しているか、自分が成長していることを感じられるか、周囲の環境を統制できると感じているか、自分の良い面も悪い面も受け入れているか、他者とも温かく信頼できる関係性を築いているか、周囲に影響されることのない自己決定力があると感じているか、の6つです。
 これらのことは、日常の一つひとつの決まりを守ることや、仲間とともに創意工夫を持って主体的に仕事に取り組んでいくための大切な基礎力のひとつであるはずです。
(2023年9月号掲載)

異物混入対応のヒント

 食品企業がお客様から異物混入のお申し出を受けた際には、責任を持って調査を行い、必要な報告をしなければなりません。
 しかし、工程が複雑な加工食品などは、調査を重ねても、どの段階の事故で、何が原因だったのかが明確にならない場合もあります。このような結果は、なかなかご報告が難しい事案といえるでしょう。
 お客様に口頭でご報告する場合、話の構成の工夫として「結論から話す」ことをお勧めします。結論が見えないまま延々と話を進めてしまうことにより、お客様側の不安や不満が大きくなってしまうことを防ぐためです。
 まず始めに、「可能な限り調査を試みましたが、原因の特定ができませんでした。大変申し訳ありません」と結論とお詫びの言葉を述べましょう。次に、調査の詳細をお伝えしても良いかをお尋ねし、ご了承をいただいたら工程・管理状況などの詳細について、また外部機関などの分析結果があればそれもお伝えします。最後にもう一度、可能な限り調査を行ったが、原因特定に至らなかったことについてお詫びの言葉で締めくくります。
 残念ながら必ず成功する方法はありません。しかし、定石に沿ったほうがご理解いただける確率が高まります。
(2023年10月号掲載)

多様な視野や視点から

 ある北国の小学校の理科の授業で、「雪がとけたら何になりますか?」という問いに対し、「水」ではなく「春」と答えた児童の話があります。「水になります」という正答と対比し、「春になります」という情緒ある答えを出すことができる視野もまた魅力的であるというエピソードですが、自然科学と人文科学、論理的視点と情緒的視点を対比するたとえ話としても有名です。
 近年、学問分野では、文系・理系の枠組みを取り払った「文理融合の専攻」や、いくつかの異なる分野にまたがって研究を行う「学際的な研究」なども広く知られるようになりました。「雪がとけたら、水になるし、春にもなる」というような、より広い視野を持って行う学問や研究でしょうか。
 食品衛生や食品安全に関連する分野を考えてみると、生物学・化学・物理学の基礎、食品科学や調理学、法学や経営学など、実に多岐にわたっています。さらに食糧問題や環境問題、動物福祉の問題などとの関連性もよりいっそう重要視されています。
 「食」という、人間が生きていくために必要不可欠なものを守り、次世代につなげていくためには、多様な視点を持った多くの人の協業がますます必要になっています。
(2023年11月号掲載)

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