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COLUMN

- コラム

「月刊クリンネス」に掲載された
過去の連載コラムの中から、
テーマ別に選りすぐりの記事をご紹介します。
(執筆者や本文の情報は執筆時のものです)

合っていますか?その日本語(5)

文化庁国語課 主任国語調査官 武田康宏

敬語は過剰になりやすい

 目上の人や客など立てるべき相手を前にすると、できるだけ上手に敬語を使おうと思うものです。間違いのないように、相手を立てていることが伝わるようにと、どうしても気を使います。
 その結果、敬語がつい過剰になりがちです。たとえば「趣味は写真をさせていただいております」、「おコート様をお預かりします」といった表現が実際に使われるのを聞くことがあります。誰に迷惑をかけるわけでもない自分の趣味までを「させていただく」と言ったり、持ちものにまで「様」を付けてしまったりするのはどうでしょうか。少々行きすぎているという印象を受ける人も多いでしょう。
 ただし、過剰な言い方を軽率に責めてしまうのは問題です。背景には、「まともな言葉遣いができないのは社会人失格だ」、「敬語はできて当たり前だ」といった厳しい意識の広がりがあって、人々を追い立てているおそれがあります。その結果、より丁寧に、後ろ指を指されないようにと、行きすぎた言い方が生じているのかもしれません。
 ちょっとした間違いに対しては、努力を認め温かく見守るような姿勢も必要です。そもそも敬語はいつも善いものであるとは限らず、相手を遠ざけてしまう場合さえあります。「です・ます」調は守りつつ、より親しみを込めて話すよう心掛けてみるのはいかがでしょうか。
(2024年2月号掲載)

補助動詞の書き方

 文章を書くときに、漢字を使うのかそれとも仮名にするのか迷う語があります。そのひとつが「補助動詞」などと呼ばれるものです。
 公用文の作成にあたっては、たとえば「その書類を下さい」、「すてきなプレゼントを頂きました」というときには、「下さい」、「頂く」と漢字を使います。これらは、「下さい」、「頂く」という動詞が、実際の行為や動作を表しており、一般的な動詞の使い方になります。
 一方、「もっと大きな声で言ってください」、「ゴミは各自で処分していただきます」といった場合の「ください」、「いただく」は、別の動詞に意味を付け加える役割をする「補助動詞」で、これらには仮名を使います。「言って」という動詞に尊敬の意味を加えるために「ください」、「処分して」に謙譲の意味を加えるために「いただく」が使われています。ほかにも「進んでいく(行く)」、「寒くなってくる(来る)」、「手伝ってあげる(上げる)」といった例があります。
 これは日本語の絶対的なルールではなく、すべて漢字で書いても、あるいは仮名で書いても誤りではありません。あくまでも公用文における考え方ではありますが、新聞などでも本動詞は漢字、補助動詞は仮名で書くという習慣が定着しています。そうすることで、使う漢字を減らし文書を読みやすくしたり、用法の違いを示したりすることができます。
(2024年4月号掲載)

もっと複雑で難しかった漢字

 毎日の生活の中で目にする漢字。漢字の多い文章には抵抗を覚える方も多いでしょう。しかし、太平洋戦争が終わるまでの日本社会では、もっとたくさんの漢字が、しかも難しい形で使われていました。
 大正8年に、当時の文部省は「漢字整理案」を発表しました。これは、漢字の形を簡単にし、より使いやすくすることを目指した提案でした。その前書きには、次のように記されています。
 現今我ガ國ニ行ハルゝ漢字ヲ見ルニ〈中略〉國民教育上漢字教授ノ徹底ヲ期スルコト困難ナルノミナラズ、實際上ノ不便亦尠シトセズ。
 (現在我が国で用いられている漢字を見ると〈中略〉国民への教育の徹底が難しいだけでなく、ふだんの生活上の不便もまた大変に多い。)
 この短い文の中にも、今では使わない「國(国)」や「實(実)」といった古い字体や、ほとんど見なくなった「亦(また)」、「尠(すくない)」などの漢字が見られます。この整理案はうまく浸透しませんでしたが、漢字の複雑さ難しさを軽減し、もっと使いやすく学びやすくするということは、明治期からの文部省の悲願でした。
 戦後すぐ、「当用漢字表」とその字体表が定められ、漢字の範囲を絞り、簡便な形にすることが実現しました。現在では「常用漢字表」が漢字使用の目安となり、学校で学ぶ漢字の範囲にもなっています。
(2024年6月号掲載)

返事は一つか二つか

 「遊んでばかりいないで、ちょっとは勉強もしなさい」
 「はいはい。もう少ししたらやるところだったのに」
 「こら。『はい』は一回でしょう」
 子どもの頃にこんな会話を経験したことはありませんか。返事は一回にしなさいと言われることがあります。大人も同様で、上司から仕事を頼まれたときに「はいはい」と返事をする人はあまりいません。
 一方、「二つ返事」という言葉があります。この意味は「ためらうことなく、すぐに気持よく承知の返事をすること」(『日本国語大辞典』小学館)などとされています。つまり、良い返事のことを「二つ返事」というのです。たとえば「たまった書類の整理をお願いしたところ、いやな顔一つせず、二つ返事で引き受けてくれた」、「最近話題の店に誘われたので、二つ返事でOKした」のように使います。
 「返事は一回」と言われることに影響されてか、良い返事の意味で「一つ返事」という表現を使う例がたまに見られます。混乱してしまうのも仕方ないですが「一つ返事」という言葉は辞書にありません。
 ちなみに、「二つ返事」とは反対に、相手の言葉をまともに聞かないままのいい加減な返事や上辺だけの返事を「生返事」、「空(そら・から)返事」などといいます。こちらも覚えておきましょう。
(2024年8月号掲載)

情けは人のためならず

 仕事の上で失敗をして困っている人に手を差し伸べるべきか悩んでいるとします。「情けは人のためならず、って言うじゃないか」とアドバイスをもらったら、あなたはどのように受け取るでしょうか。
 文化庁の「国語に関する世論調査」によると、10代後半から50代までの人では、「情けをかけて助けてやることは、結局その人のためにならない(→厳しく接するほうがいい)」という意味だと考える方が多いようです。しかし、辞書を引いてみると事情は異なります。「人に情けをかけておくと、巡り巡って結局は自分のためになる(→助けてあげたほうがいい)」というのがもともとの使い方なのです。
 誤解はなぜ起きるのでしょうか。「ためならず」は、古い言い回しです。「ためなり(ためである)」を打ち消して「ためならず」、つまり、「人のためではない(自分のため)」というのが本来の意味です。ところが現代においては「なり」を動詞の「なる」と勘違いし、「ためになる」の否定形「人のためにならない」と読んでしまうのです。
 慣用句をはじめとする古くからの言葉の中には、時間の経過によって本来とは違う意味で使われがちなものがあります。特に年齢差のある人との会話では、相手の使っている意味と自分の理解との間に食い違いがないか、注意が必要になる場合もあるでしょう。
(2024年10月号掲載)

新しいオノマトペ

 「ぺこぺこ」、「ばっさり」、「にこにこ」など、日本語には豊かなオノマトペがあります。音や状態を写し取ったりまねたりして表した言葉で、親しみやすく、日々の暮らしに根付いてきました。音を写すものは「擬声語」、「擬音語」、状態を写すものは「擬態語」ともいいます。
 オノマトペは、聞く音や感じる印象をそのまま言語化するので、新語が生まれやすいという性質があります。たとえば「がっつり食べた」などと使う「がっつり」。今年文化庁で実施した調査では、85%を超える方が、この言葉を「気にならない」と答えており、多くの人たちに認識されるようになっています。しかし、辞書に載りはじめたのは2010年前後で、平成の中頃までは一般的ではありませんでした。
 また、ときめきを感じたときに使う「きゅんきゅん」も近年急速に広がったオノマトペです。先の調査では8割が「気にならない」と答えていますが、辞書に載ったのは令和に入ってからと最近です。昔から恋愛感情の表現として「胸がきゅんとする」、「胸キュン」などが使われてきました。その進化形ともいえる「きゅんきゅん」は、もう少し軽い印象で、かわいく愛らしいものに対しても使われるようです。
 ふだん何気なく使っているオノマトペ。ちょっと意識してみると、日本語の面白さに気付くことができるかもしれません。
(2024年12月号掲載)

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